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◇金曜飲み会*圭 1

 金曜の夕方。何とか仕事が終わった。  正確にはまだ終わってはいなかったのだけれど、太一先輩が「今週は頑張ったから、もう帰ろう!」と言って帰してくれた。  なので、少し遅れたけれど、加藤の連絡にあった店にやってきた。  加藤の名前を伝えて案内されると、20人位がオレを振り返る。  おお? なにこれ。  固まっていると。 「お疲れ様でーす!」とあちこちから声がかかる。  適当に頷いて返しながら、ざっと顔を見る。    すでに出来上がってる人も多い気がする。まだ30分位なんだけどな……  ていうか、誰だこの人達……。 加藤は?   「織田、こっち」 「あ、加藤」  呼ばれて、加藤の隣の席に座る。空けておいてくれたらしい。  うん、ていうか、良かった。  だって、殆ど知らない顔だし。 「なあ、同期とその知り合い、て言ってなかったっけ?同期がメインだと思ってた」 「はは、そうだったはずなんだけどさ」 「同期って、オレとお前と……あと、日下しか居なくねえ?」 「ごめん、オレも忙しかったからさ、日下に集めるの頼んだら、なんか、あのビルの知り合いとか色々呼んでてさー」 「ほとんど知らない奴なんだけど」  ……ていうかもはやこのノリは、合コンに近い。半分知らない女子。  こんなの、高瀬に何て言ったらいいんだ。  ……もう正直に言うしかないけど。  さっき、来る前に電話したけど繋がらなかった。一応行ってくるねと、連絡は入れておいたけど。  まさかこんな類の飲み会だとは夢にも思わなかった。  同期で、今週大変だった事、ちょっと愚痴れるかと思ってきたけど、これは……今のオレには、すごい疲れる……。  それでも、とりあえず横の加藤を含め、周り数人で色々話をしていたら、急に、「織田―!」と、日下に呼ばれた。 「ほれ、ビール! 最後にきたから、とりあえず自己紹介!」  日下の声がして、コップに注がれたビールを渡される。受け取るために立ち上がったまま。 「織田です。よろしくー、はいカンパーイ!」  一応皆カンパイして、オレはコップのビールを飲み干した。  のだが。 「っておいおい、それだけ?!」  日下が苦笑いでそう言ってくる。 「はー? 何聞きたいんだよ??」  こんなノリ久しぶり過ぎるし、それに、もはや早く終わって帰りたい位なのに。自己紹介めっちゃして、女子と絡みたい訳でもないし。 「じゃあ織田くん、最後にキスしたのは、いつですかー?」  ――――……日下、あとで、どついておこう。  えーと、キス。まあこれくらい答えてもいいか。  言っとけば、女子もオレんとこ、来ないだろ。うん。 「火曜日」 「おお、最近じゃん。彼女ですかー?」 「いや、彼女じゃ――――……」  彼女じゃない。……彼女では、ない。 いやちがう、やばい。  咄嗟に言ってしまった瞬間。やば、と思って、口を噤んだのだけれど。  一気に周りが盛り上がってしまった。 「彼女じゃない誰とキスしたのー?」  そんな突っ込みが、知らない奴らからも入ってくる。  ……そもそも、すでに皆さん、結構酔ってる。  あーもう……。 「……っ……飲みまーす!」  隣の加藤の前に置いてあった、全然減ってないジョッキを持ちあげ、一気に飲み干した。おー!と拍手が飛んでくる。 「はい――――……以上で!」  拍手や笑いの中、そう言って、席に座る。うやむやに、さっきの質問も終わらせ、ホッとしてると。 「無茶すんなよー」  加藤が面白そうに笑ってる。 「1杯くらいなら大丈夫。てか、なに今の酒」 「ハイボール。濃い目に作ってもらってたから…… 結構濃くなかった?」 「めちゃくちゃ濃かった。途中で吹きそうだった……」  あはは、と加藤や、近くに居た女子達が笑ってる。 「なになに、誰とキスしたの、織田」 「……んー、内緒」 「彼女じゃないんだろ?」 「だから内緒」 「いいよな、お前モテそうだもんなー」 「……そんな事ないかなー。最近全然かも」 「じゃあ誰とキスしたんだよ、おかしいだろ」  ――――……えーっと。  高瀬と。……会社のトイレで。  なんて、言えるはずもない。  

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