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◇金曜飲み会*圭 5

『そういえば、思ってた飲みと違うって、何?』 「ああ。んー……同期ってより、合コンみたいな感じだった……知らない奴の方が多くてさ」 『ああ、そっか』 「……心配いらないからね」  そう言うと、高瀬がくす、と笑った。 『してないよ』 「……高瀬、仕事終わったの?」 『ん、もう残りは全部任せてきた』  その声を聞きながら時計を見ると、今20時過ぎ。 「少しは早く終わって良かったね。……今日はこっちの飲みは来ない?」 『今からそっち行ってな……21時までなんだろ? 先輩達が今日はこっち泊るかって言ってたから、今からお疲れ会で飲むんだけど。今その店の前で電話してて――――…… あ、はい。今行きます。……あ、ビールで。すみません』 「呼ばれた?」 『うん。飲み物頼むって』 「そっか。いってらっしゃい。楽しんできてね」 『織田、そこそこで帰れよ?』 「――――……やっぱり心配してる?」 『……ちょっとはしてる』 「大丈夫だから。帰りタクシーに乗っちゃうから」  笑いながら言うと、高瀬も電話の向こうで笑ってる。  飲み屋のドアが開いて、そちらに目をやると、須長だった 「……あ、高瀬ちょっと待って。 須長どうしたの?」 「大丈夫かなと思って。……飲み物来たよ」  こそこそと話してくれるので、頷いて見せた。 「ん。ごめん、電話終わったら行くね」  言うと、須長は、店に戻っていった。 『……織田?』 「あ、なんかさっき知り合った奴が呼びに来たから。あ、男だよ?」 『……須長って言った?』 「うん」 『……オレの知ってる須長かな――――……』 「……高瀬、 須長、知ってるの?」 『もしかしたら、知ってるかも……そいつ、あんまり近寄らないどいて?』 「え?」 『オレが知ってる奴なら、近づかない方がいいから』 「え、近寄らない方がいいの?」 『んー……皆がいるとこで話す位ならいいけど、2人にならないで? とりあえず飲み終わったらまっすぐ帰ってくれれば平気。明日話すから』 「あ、うん。分かった」 『ごめん、先輩がまた来た。 行ってくる』 「うん、じゃね」  電話が切れて、思わず首を傾げた。  ……須長、知ってるかも? 他の会社の奴だけど……。  でも、須長なんてたまに居るし、あの須長の事かは分かんないって事だよね……。  とりあえず高瀬の知り合いに、「あんまり2人きりにならない方がいい須長」が居る、ていうこと、だよな?  何だろ。  不思議に思いながら、店に戻って、とりあえず須長の隣に座る。 「おかえり」  須長がにこ、と笑む。  この須長は、悪い奴じゃなさそうだけどな。 「なあ、変な事聞くけど……」 「うん?」 「高瀬って、知ってる?」 「……たかせ?」 「高瀬拓哉。知らない?」 「ん」  にっこり笑顔のまま、頷いてる。  そっか。須長が知らないって事は、高瀬の知ってる須長じゃないって事だよな?  まあ……どっちにしても、とりあえず、2人にならなきゃ良いって言ってたし。 ……何でなんだろ。最後にそれだけ聞いときゃよかった。 「ん、これ、カルーア」 「ありがと」 「ん。……そんで? その、高瀬がなんなの?」 「いや。何って事はないんだけど…… 知ってるかなーと思って」  オレがそう言うと、周りの女の子たちが会話に入ってきた。 「高瀬くん、知ってるー!」 「めっちゃカッコイイ人だよね」  ほんと、すごいなー。  なんか、高瀬がこういう風に言われてるのを聞くの、慣れてきた。  女子が皆、高瀬の話する時、ハートマーク飛ばしてるみたいな感じになるのが、もう、ほんとにすごいなあと。  でも、普段一番ハート飛ばしてるの自分かも…… なんて思ったり。  もう、オレはいっそ、女子達に混ざって「分かる分かる、めっちゃカッコイイよね!」と、返したいくらい。  ……まあまさか、できないけど。  アホな事を考えながら、カルーアを飲みつつ。  須長もその横で、しばらく女子達の話を聞いてたけど、ぷ、と笑いだして。 「有名なんだね、高瀬ってやつ」  須長を見ると、クスクス笑ってる。  やっぱり近寄っちゃいけないようなヤバそうな奴には見えないな。  ……須長違いだな。  近づかないで、なんて どんな奴なんだろ。  明日聞こうっと。  ……早く高瀬に会いたいな。泊まらないで帰ってきてほしかったけど……疲れてるだろうし、先輩達とお疲れ会も分かるし、終わったらすぐ寝たいだろうし。言えなかった。  そうだ、オレが向こうに行けばよかったなー、と今思うけれど、  わりと酔ってて、無理な気もする。  ……はー。  早く明日になればいいのに。

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