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◇金曜飲み会*圭 6
「なあ、織田、次これ飲まない? うまいよ」
「なにそれ?」
「モスコミュール。頼む?」
「んー……うん。それで最後にするね」
言いながら、須長を見上げると、ん、と頷いてくれた。
と、そこへ。
「なあなあ、織田、誰とキスしたのー?」
またこの質問か。しつこいぞ。
誰だ、と思ったら日下が、空いてた前の席に座ってきた。
「……しつこいなー、日下」
「だって気になるじゃん」
「彼女じゃないけど……すっげえ好きな人としたの。これでいい?」
「――――……ますます気になるじゃん! 誰だよ!」
「もったいないから、絶対言わない」
「なんだよおまえーー!!」
「つか、日下、なんで今日同期の飲みじゃなくて、合コンになってんの」
他には聞こえないように、こっそり聞いてみると。
「だってさー、高瀬も来るかもとか最初聞いたし、織田も来るし、試しに聞いたら須長も誘ったら来れるっていうし、こんだけイケメンそろったら、合コンにするでしょ、絶対女子集まるし」
悪びれず言う日下に、はー、とため息。
「そうするなら、先に言えよ」
……だったら来なかったのに。
「織田、モスコ来たよ」
須長に、目の前に置かれる。
「……つか、オレまだカルーア飲み終わってないんだけど……」
笑いながら言うと「じゃあそっちは一気で」と言われる。
「そうだ、お前、大好きな人言わないなら飲めー!」
日下もそんな風に言ってくる。
……はー。まあいっか。
「……オレが酔ったら、タクシー呼んでくれる?」
「ん、いーよ。それにまだ時間早いし。酔ったら冷めるまで付き合ってやる」
「ん、オレも付き合ってあげるよ」
日下と須長が2人で言うので、残ってたカルーアを、飲み干す。
……甘くて美味しいんだけど……意外と強いんだよね。
お疲れでその上、寝不足のオレには、さっきの濃いハイボールから始まって、なんか色々飲み過ぎたかも……。
高瀬に、べろべろになってたとか報告されたくないなー……。
「やっぱオレもうやめる」
「ええー。面倒見るって言ってるじゃん。今日は高瀬も居ないし、たまには酔っぱらえー」
さっきの加藤に続き、日下にまで、そんな事言われた。
「だからなんで高瀬が出てくんだよ」
言ってる所に、ちょうど加藤が現れた。
「だから高瀬がいっっも過保護で、織田が酔っぱらいだすと止めるからって、さっき言ったじゃん」
「そうそう。 高瀬、なんであんな顔して、お前には過保護なの?」
「……あんな顔ってなに?」
「んーと…… 世話なんてしなそうな顔?」
「酔っ払いの男なんて、ほっとくタイプだよな?」
「んなことないし。 高瀬、優しいし」
「お前には特に優しいよな。てか、保護者みてえ」
「なことないって」
ああ、もう。やだやだ。恥ずかしくなってくる。
保護者じゃないし。
……今は、恋人、だし。
……恋人になる前の事だな、2人が言ってるのは。
友達の時から、ずっと、優しかったなあ……。
と、高瀬の事に浸ろうとしてるのに。
「保護者がいない間に飲んどけー」
と、うるさい。
「……もー、なんで合コンなのに、男4人で飲んでんだよ、お前ら女子の方に散ったら? あっちの男子に全部もってかれちゃうよ?」
こそこそと、ここ3人の男子だけに聞こえるようにそう言うけど。
「別に少しくらいいいじゃん」
「そうだそうだ」
まあ、なんだかんだ言いながら、周りには女子も居て、オレら4人の周りで笑ってるし、知らない男子たちも女子と楽しそうにしてるし、傍から見れば楽しそうな合コン風景なんだろうか……。
……ていうか、高瀬に絶対見られたくない。
高瀬は今……一緒に居るの男だけなのかなあ。
先輩達、って言ってたし。男かどうかは、分かんないよなあ……。
別に疑う訳じゃないけど。でもやっぱり、少し嫌だから、だからこそ、オレの今のこの状態は……。
「……オレそろそろ帰ってもいい?」
「なんだとー! オレ達と飲めないってのか、織田」
「そうだそうだー! 飲むぞー! ほら、織田、乾杯ー!」
日下も加藤も、結構酔っぱらってる。
……合コンでこんなご機嫌になってて、やる気あんのかな、こいつら……。
苦笑いしてると、須長が横からメニューを渡してくる。
「次なに?」
「……だから、オレもう飲まないって。 水欲しいし」
「飲まないとか言うな―」
あほ2人が騒いでくる。
「須長、適当にオレらの分も頼んで」
「分かった」
須長が店員に飲みもの頼みにいくのを見ながら、ため息。
「織田くん、酔ってるの?」
隣の席の女子に聞かれる。
「ちょっと寝不足だから、回ってるかも……」
「そっか。大丈夫? ……なんか、しゃべりかた可愛い、織田くん」
近距離で、 ふわ、と微笑む女子に。
ときめくよりも思い出すのは、「しゃべり方が可愛くなってる」という高瀬のセリフ。
「お前、ほんと可愛いってよく言われてるな」
クスクス笑う加藤に、「……オレ男だから可愛いとか、ない」と言うと、須長が戻ってきながら、それを聞いて、ぷっと笑ってる。
「まあ確かに、可愛い感じだよね」
「……可愛くないから」
「えー、可愛いよ?」
隣の女子にも再度言われ。
はあ、と息をついて、グラスに口を付けた。
高瀬を好きになってから、なんか、可愛いと言われることが増えたような気がする。……女子化してるのかな……? オレ。
……してるのかなー……。
ドキドキしたり、赤くなったり、もう、高瀬に会う前のオレでは、絶対ない気がしてしまう。それまで、オレ一応女の子、リードして、付き合ってたんだよなー……。どうやって付き合ってたんだか、ほんとに思い出せない。
……だってなー……
高瀬、ほんとに全部、カッコいいんだもんなあ。
ドキドキしちゃうもんなー……。
……会いたいなー……。
もう、ほんと、ほんのちょっと会ってないだけなのに。
なんかものすごく長いこと、会ってない気がする。
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