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◇金曜飲み会*圭 7

 そんな事をぼんやりと思っている間に、また新しい飲み物が置かれる。 「あのさぁ…… もう、お前ら全部飲んでいーから…… オレもうほんっとに、良いって……」 「タクシー呼んでやるってー」  酔って、気持ち悪くなるタイプだったら、もうとっくに終わらせてくれるんだろうけど。オレは、なんかハイになってくから、いっつも面白がって飲まされるんだよな……。大学時代とかからずっとそうだった。  でも社会人になってから、ほんとに高瀬がいつも居たからなあ。  あんまり飲まなくなってたのもあって、少し、大学時代よりは弱くなったかも。  飲まないだの、飲んでだの、じゃあそっちも飲め、だの。  わあわあとやり取りをしてる間にも、なんだかんだお互い色々飲んでて。  はー。  吐いた息が、あっつい。 「もうオレ、ここでやめる。あとは、お前ら勝手に飲んで」  なんか、眠くなってきた。やっぱり、寝不足って、結構クる。  ……高瀬は……まだ飲んでんのかな。  なんて思って、スマホをポケットから取り出す。特に連絡がないから、飲んでるんだろうなあと思いながら、スマホを目の前に置いて、片肘をついて額に手を当てる。  ――――……あっつ。    ……だめだ、これ以上酔ったら、高瀬に怒られる。  ……怒りはしないか。……心配される。  と、その時。テーブルに置いたスマホが、震えだした。  ……あれ。なんか鳴ってる。  ――――…… あ、高瀬だ……。 「……もしもーし……? 高瀬ー……?」 『あ、織田? ……って、酔ってんな』 「あー……うん…… 日下と加藤と須長に飲まされて……」  言った瞬間。 「こらこら織田、ちょっと待って、電話貸して」  焦った加藤に電話を取られた。 「こらー返せー」 「あ、高瀬? 加藤だけど。 誤解だよ、飲ませたんじゃなくて、皆で楽しく飲んでただけで……」 「嘘つくな―! 次から次に頼んだくせにー」  わあわあ言ってると、隣の須長に、口抑えられて、引かれた。背中を須長に預けてしまう感じになる。 「むぐ……」 「織田、しー。電話してるし」 「なにいってんだよ、あれ、オレの電話……」 「いいから静かにね」  クスクス笑ってるけど、中々に力が強くて、起き上がれない。  そんなオレを見て、苦笑いしながら、加藤が話し続ける。 「ん?ああ…… 織田が須長に捕まってるから――――…… いや、大丈夫、ちゃんと織田、タクシーに乗せる約束したから」  加藤がそんな事を、電話に向かって言ってる。 「ん? 須長? ――――……須長って、下の名前なに?」  高瀬に聞かれたみたいで、加藤がこっちを向いて、そう聞いてくる。 「しょうま。 だよな?」  オレが言って、須長を振り返ると、苦笑いの須長。  加藤がそれを伝えてる。 「うん……ん? ……織田、どーしても電話に出ろって」 「だからかえせって言ってんじゃん!」 「はい」  やっと手元に返ってきた電話。   「もしもし高瀬? ごめんね、加藤に電話奪われて」 『織田、須長、近くにいる?』 「?……うん」  ……すげえ近くにいる。  軽く寄っかからされてる感じ。  よいしょ、と、須長から離れて起き上がる。    『……黙って聞いて』 「うん……?」 『絶対2人になんないで』 「……?……でも、須長、高瀬知らないんだよな?」  須長を振り返ると。  須長は、くす、と笑って、オレの手から電話を取った。 「あ、だからなんでオレの電話取」 「あー、高瀬?……久しぶり」 「……え」  知ってんの?  目が点のオレを見て苦笑しながら。  少し、須長が黙って、それから、電話に対して、ぷっと笑った。 「……大丈夫だって。 さすがにないし」  ……知り合いなのかよ。 「だから平気。――――……分かった、織田のことは任せて、ちゃんと面倒見るから。…… じゃあなー」 「えっ」  え。切ったの? 「はい、スマホ返すね」  須長が切ったスマホをズボンの後ろポケットに入れてくる。 「つか、なんで切るんだよ、オレまだ話してたのに……」 「なんか先輩に呼ばれたって」 「あ、そうなのか……つかなんでお前らオレの電話取るんだよ」  と、加藤と須長に愚痴る。  そこで、はっと気づいて、須長を睨んでしまう。 「お前、高瀬知らないって言ったじゃん……嘘つきだな」 「……ごめん、ちょっとさっきは、説明もめんどくさかったから」 「どーいうこと? お前、納得いく説明じゃなかったら、もう話さないからな」  言うと、ぷ、と笑いながら。 「むかーし昔に知ってるだけで。今は全く交流なくてさ」 「……昔って?」 「モデルやってた頃」 「え。そうなの? モデルの頃の高瀬、知ってるの?」 「そう。で、その頃も別に仲良かったわけじゃないし。だから、たまたま同じビルで見かけて居るのは知ってたけど…… 話してもなかったし。ていうのを、説明すんのがやだったの。 ごめんな」 「……ふーん……」  あ、だからか。  高瀬、モデルの頃のこと、あんまり好きそうにないもんな。  いい思い出ないって言ってたし。  それで、須長にあんまり近寄るなって言ったのかな……。  なるほど。 「でも、ちょっと知ってるとか。普通に言ってくれればいいじゃん。嘘つかなくていいのに」 「……織田って、すげえ、まっすぐだな」 「……嘘つくなって言ってるだけじゃん」 「……そだね、ごめん」  謝ってくれたし、そこでまあいっか、と話を終わらせる。 「――――……なあ、加藤、この店、21時までじゃねえの?」 「なんかさっき店の人がきて、1時間なら延長してもいいって。次の予約が22時半なんだってさ。だから頼んじゃった」 「あ、そーなんだ…… どうしよーかなー…… すげえ眠いんだけど」 「……確かに眠そうだなー…… ていうか、そうだ、オマエ高瀬に余計なこと言うなよ」 「え? なんのこと?」 「飲まされたとかー」 「……だってほんとのことじゃん」 「何なの、織田さ、高瀬の前でなんかやらかしたことあんの? なんであんなに心配すんの?」 「うーん……? まあたまにふらふらっとすることも、あったかなあ……支えてくれたりした事あるかも……」 「あーそれでか……」  加藤が、ぷ、と笑う。 「織田、帰るんならタクシー呼ぶけど?」 「んー…… 誰もまだ帰んねーの?」 「皆楽しそうだし、なー」  加藤が周りを見回しながらそんな風に言う。  遅れてきて先に帰るのもなあ……。 「いいや。22時にタクシー呼ぶことにする。それまでに冷ましとく」 「まだ時間あるし、も少し飲む?」 「……高瀬に言いつけてやる」  効くかな、と思ってそう言うと。 「……なんか嫌だなそれ、やめといて」  拒否る加藤に、ぷ、と笑ってしまう。

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