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◇幸せな時間*圭
タクシーを止めて乗り込んだ高瀬の隣に、座る。
高瀬は運転手に住所を伝えてから、オレを見る。
「織田顔赤い……ちょっと寝てていいよ」
そう言われて、腕を引かれて、高瀬によりかかる形で座らされる。
酔ってる、という形にすれば、運転手さん居るけど、少しくっついててもいいかなあと思って。そのまま素直に高瀬によりかかる。
すると、2人の間の、運転手からは見えない所で、手が繋がれて。
高瀬を見上げたら、くす、と微笑んでくれて。
また、そのまま、寄りかかった。
なんか。
すごい、幸せな時間で。
眠たいんだけど、寝るのがもったいなくて。
高瀬の手をきゅ、と握ったり、すりすり擦ったりして。
そしたら、高瀬も指を絡めてきたり。
なんか。
――――…… ぞく、としたものを、感じてしまいそうで。
ぴく、と指が震えると。
高瀬が、くす、と笑うのが伝わってくる。
――――……なんか……高瀬だなあ……。
今日は会えないと思ってたから――――……。
めちゃくちゃ、嬉しいなあ……。
すり、と頭を寄せると。繋いだ手が、ぎゅ、と握られた。
「――――……眠い?」
「……うん」
また、くす、と笑われる。
優しく手が触れるだけで、なんだかものすごく、いちゃついてる気分。
幸せ過ぎて、ついつい微笑んでしまう位。
「あ、そこで大丈夫です」
高瀬が告げて、タクシーがマンションの前に止まった。
「織田、先降りてて」
「……ん……」
暖かかった高瀬から離され、仕方なく、タクシーを降りて。
会計をすませて高瀬がタクシーを降りると、オレの腕を掴んで支えた。
「……歩ける?」
「うん。大丈夫」
「歩けないふりしてていいよ」
「――――……うん」
笑いながら言う高瀬に、意味が分かって、オレもぷ、と笑いながら頷いた。
支えられるふりをしつつ、高瀬にくっついてると。
「タクシーの中でさ、指、変な触り方されるとさ」
「……ん?」
「すげえ反応しそうになるんだけど」
「――――……それ、オレも……」
「ん、知ってる。――――……ていうか、先に織田がやったから、オレはやり返しただけだけど」
クスクス笑いながら、たまっていた郵便物をポストから取り出して、2人でエレベーターにのりこむ。少しだけ沈黙。
「……埼玉の仕事、きつかった?」
「んー……そうだな。軽く言っても……修羅場、だったかなぁ」
クスクス笑いながら言う高瀬に、オレは不思議そうに見上げる。
「何でそんな楽しそうに話すの? 修羅場……」
「え? ああ…… 違う、あっちに居た時は、大変だったけど」
「うん」
「今は織田が横に居るじゃん。 もう終わったし、織田居るし」
「――――……」
「織田が居るから、楽しそうに話してるだけだよ」
そんな風に言いながら、エレベーターを先に降りて、高瀬が振り返る。
「早く部屋いこ」
「うん」
――――……オレが居るから、楽しそうなんだ……。
そんな風に言ってくれると。
ほんと、嬉しい。
鍵を開けて、ドアを開けてくれるので、先に中に入る。
靴を脱いでる後ろで、高瀬がカギをかけて、持ってた鞄を、玄関に置いた。
靴を脱いだ高瀬を、くるっと振り返って。
ぎゅー、と抱き付いてみた。
「おかえりー、高瀬」
「……はは。何それ」
「……すっごい、寂しかった…… おかえりー、高瀬ー……」
「――――……ん」
ぎゅー、と包み込むみたいに抱き締められる。
それから、ちゅ、と唇に軽くキスされた。
すぐに離れたキスが、ちょっと不満。
もっと、ちゃんと、キスしたいのに。
そう思って、高瀬を見上げると。苦笑い。
「――――……なんかオレの服、タバコくさくない? あっち、すげー吸う人多くてさ。今ここで始めたらおさまんねーから……シャワー浴びてから、ちゃんとしたい」
ぶに、と、頬をつままれる。
「だからさ、織田」
「――――……」
「先、シャワー浴びて? オレ、スーツとかも色々片付けたいし」
「……うん」
おさまんねーから、にドキドキして。
素直に、うん、と頷いて。
バスルームに向かう。
「スーツかけとくから、脱いで」
「ん……」
高瀬にスーツを渡すと、すぐに閉じられたバスルームのドアを見ながら。
タバコくさくても、なんでもいいから。
キスしたかったなーなんて、思いつつ。
は、でもオレも、酒臭いかも。
流してからにしよ。やっぱり。
綺麗にしたら。
高瀬といっぱいキスしよ……。なんて、ウキウキしつつ。
シャツのボタンを外し始めた。
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