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◇すべての運*圭
「織田? ベルトして?」
「あ。うん」
もうすっかりシートベルトをして、出る準備万端の高瀬を見て慌ててシートベルトを締める。
「……あとで、いっぱい触ってあげるから。今はちょっと我慢な?」
よしよし、と撫でられる。
あとで? いつ?
……なにを? どこを……っ??
……あ、もう、ほんと無理。
今日一番に、真っ赤になって。
高瀬は、ふ、と笑った。
「……ほんと可愛いな、織田」
「……っからかって、遊んでるでしょ」
「まあ、可愛いから確かにからかう時もあるけど……遊んでる訳じゃないよ。ただ、可愛いと思うだけ」
「……ほんといつも思うけど」
「ん?」
「……オレが、可愛いって、よく分かんない」
そう言うと、高瀬は、ははっ、と笑った。
「……だからさ、ほんとにそこは、オレだけが分かってればいいんじゃない?」
クスクス笑う、その顔が、ほんとに、優しい。
「他の奴から見たら……織田、普通にカッコいいって言われてきただろ? オレの前に居るお前が、オレにとってはすごい可愛いだけだし……」
「――――……っ」
「オレが可愛いっつってんのは、完全に好きだからだし。さらっと聞いといてくれればいいよ」
笑いながら、そんな事、言ってる。
……もう。
絶対オレ、勝てないよな……。
高瀬が、周囲を確認しながら車を発進させるのを横目に。
1人、頭と体が冷める事を、頭の中でひたすら探した。
明後日の仕事何からやろうかなーとか。
金曜、もう帰ろうって、ちょっと投げ出してきたから、絶対大変だよなー、とか。
仕事の事を色々思い浮かべてみる。
とりあえずその努力が実ったのか、とりあえず何とか落ち着いた。
相変わらず土砂降りの雨を眺めながら。
「高瀬、ごめんね、こんな視界悪い日に……」
「全然大丈夫」
……優しい。
そしてカッコいい。
こんな人が恋人とか。
もうすべての運をここで使い切ってる気もするけど。
……まあいっか、それでも。なんて、思ってしまう自分。
気付いて、何考えてんだろ、と呆れつつ。
直視するとバレるので、こっそり斜め前方に視線を向けて、高瀬の姿を目の端に映しながら、過ごしていると。
こないだ旅行の時も思ったけど。
運転の仕方がすごく好きだなあ、とまた感じる。
運転に性格が出る、と聞いた事があるし、実際そうだ思う。
だとしたら。
高瀬の運転がすごい好きだから、オレは、高瀬の性格も、大好きって事になる。
乱暴に発車しない、止まる時も静か。
前の車が遅くても、へたくそでも、イライラしないし。
入ろうとしてる車とか、右折車とか、よく入れてあげてる。周りを見ながらちゃんと。
やっぱり、すごい優しい。よく気づく。
「……高瀬の運転さ」
「うん?」
「……心地イイ」
「ん? そう?」
クスクス笑う。
「心地いいって、どういう事?」
「――――……優しくて好きだなーって事」
「ふーん……ありがと」
ぷ、と笑いながら、高瀬が言う。
……カッコ良すぎて、ズルいよな。
――――……ほんとにオレ、心から、
この世で高瀬が一番カッコいいと思ってるし。
ああ、車って。
高瀬、ずっとこっそり見れて、楽しい……。
……ってオレ気持ち悪い……??
ウキウキしたり葛藤したり、心の中で、オレ、1人でかなり慌ただしい。
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