159 / 236

◇すべての運*圭

「織田? ベルトして?」 「あ。うん」  もうすっかりシートベルトをして、出る準備万端の高瀬を見て慌ててシートベルトを締める。 「……あとで、いっぱい触ってあげるから。今はちょっと我慢な?」  よしよし、と撫でられる。  あとで? いつ?  ……なにを? どこを……っ??  ……あ、もう、ほんと無理。  今日一番に、真っ赤になって。  高瀬は、ふ、と笑った。 「……ほんと可愛いな、織田」 「……っからかって、遊んでるでしょ」 「まあ、可愛いから確かにからかう時もあるけど……遊んでる訳じゃないよ。ただ、可愛いと思うだけ」 「……ほんといつも思うけど」 「ん?」 「……オレが、可愛いって、よく分かんない」  そう言うと、高瀬は、ははっ、と笑った。 「……だからさ、ほんとにそこは、オレだけが分かってればいいんじゃない?」  クスクス笑う、その顔が、ほんとに、優しい。 「他の奴から見たら……織田、普通にカッコいいって言われてきただろ? オレの前に居るお前が、オレにとってはすごい可愛いだけだし……」 「――――……っ」 「オレが可愛いっつってんのは、完全に好きだからだし。さらっと聞いといてくれればいいよ」  笑いながら、そんな事、言ってる。  ……もう。  絶対オレ、勝てないよな……。    高瀬が、周囲を確認しながら車を発進させるのを横目に。  1人、頭と体が冷める事を、頭の中でひたすら探した。  明後日の仕事何からやろうかなーとか。  金曜、もう帰ろうって、ちょっと投げ出してきたから、絶対大変だよなー、とか。  仕事の事を色々思い浮かべてみる。  とりあえずその努力が実ったのか、とりあえず何とか落ち着いた。  相変わらず土砂降りの雨を眺めながら。 「高瀬、ごめんね、こんな視界悪い日に……」 「全然大丈夫」  ……優しい。  そしてカッコいい。  こんな人が恋人とか。  もうすべての運をここで使い切ってる気もするけど。  ……まあいっか、それでも。なんて、思ってしまう自分。  気付いて、何考えてんだろ、と呆れつつ。  直視するとバレるので、こっそり斜め前方に視線を向けて、高瀬の姿を目の端に映しながら、過ごしていると。  こないだ旅行の時も思ったけど。  運転の仕方がすごく好きだなあ、とまた感じる。  運転に性格が出る、と聞いた事があるし、実際そうだ思う。  だとしたら。  高瀬の運転がすごい好きだから、オレは、高瀬の性格も、大好きって事になる。  乱暴に発車しない、止まる時も静か。  前の車が遅くても、へたくそでも、イライラしないし。  入ろうとしてる車とか、右折車とか、よく入れてあげてる。周りを見ながらちゃんと。  やっぱり、すごい優しい。よく気づく。 「……高瀬の運転さ」 「うん?」 「……心地イイ」 「ん? そう?」  クスクス笑う。 「心地いいって、どういう事?」 「――――……優しくて好きだなーって事」 「ふーん……ありがと」  ぷ、と笑いながら、高瀬が言う。  ……カッコ良すぎて、ズルいよな。  ――――……ほんとにオレ、心から、  この世で高瀬が一番カッコいいと思ってるし。  ああ、車って。  高瀬、ずっとこっそり見れて、楽しい……。  ……ってオレ気持ち悪い……??  ウキウキしたり葛藤したり、心の中で、オレ、1人でかなり慌ただしい。

ともだちにシェアしよう!