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◇兄貴で*圭
スマホを高瀬に渡して。高瀬と向かいあった感じになる。
高瀬は一回脱いでた服を途中で羽織ってたけど。前から胸や腹筋が見えてるから。なんだかカッコよくて、ほんと、こんな時にドキドキして何考えるのかなと自分で思ってしまうのだけど。ドキドキしちゃうものはしょうがない。
なるべく視線を外して、ひたすら高瀬を見上げる事にする。
すると、高瀬がオレをまっすぐ見下ろして、ふ、と笑む。なんか余計、これもドキドキする。
そんなオレの前で、高瀬が話し始めた。
「……あ。もしもし。高瀬です」
『あぁ。高瀬くん? 今の話、聞いてた?』
「はい。聞いてました。――――……すみません。今日、ちゃんと言えなくて」
『全然いいよ。そんなすぐ言えるような事じゃないだろうし』
「俊兄、オレも、ごめん。言えなくて」
脇からそう言ったオレに、高瀬がクスクス笑って。電話の向こうで俊兄も笑ってる。
『まあさ。いつか父さんたちに話すとか、色々あるだろうけど。そういうのも、また話そうな』
「うん」
『高瀬くん?』
「はい」
『圭をよろしく。まあ、今日みてた感じだと大丈夫そうだけど』
俊兄が笑いながら言うと。
高瀬はオレをまっすぐ見つめて、ふ、と笑む。
「オレも、入社式からずっとだったので」
高瀬がそう言うと。
『え、そうなの? お互い知らずに過ごしてたってこと?』
何だか俊兄が、超ノリノリで。
「織田、早く結婚したい、とか言ってたから、無理だと思ってたので……」
『そーなのかー。そっか、じゃあ、ほんと、良かったなあ、2人共』
……オレの兄貴と。高瀬が。
オレと高瀬の恋バナをしているのを、横で聞いてるオレは、一体どんな顔をしてればいいんだろ。
あまりに唐突なこの時間に、何の対処もできないんだけど。
『ちなみにさ、圭のどこが好きなの?』
わーわー、俊兄、何聞いてんだー!?
狼狽えてるオレを見て、高瀬が笑う。
「素直なとこと、一生懸命なとこと、人にすごく愛されるとこと……笑った顔とか。全部好きですけど」
う。
わー。
顔。熱っつ。
……溶けて、死ぬ。
『おー、なんか、オレが圭を好きなトコと結構被るな。――――……なんか、ちゃんと分かって一緒に居てくれてるんだな』
「――――……そう。ですね。オレが結構冷めてるんで。……暖かくて、良いです」
……ほんとに溶けますけど。
『冷めてる? 冷めてんの、高瀬くん』
「……まあ割と、そう言われてきてるので」
そんな事ないよ、と首を振っていると。高瀬が、クスクス笑いながらオレの頬に触れてたけど。その時。
『ほんとに冷めてる奴は、圭の事、好きにはならないと思うから。今まで冷めて見られてたとしても、ほんとは冷めた人間じゃないと思うけどね』
――――……何だか俊兄。
すっげー、なんでもないことのように。
なんだかすごい、高瀬の事、分かってるようなこと。言った。
「俊兄」
『ん?』
「オレ、俊兄が、兄貴でほんと良かった」
『おお? なんだ突然』
向こうでクスクス笑ってる俊兄に。
ほんとにそう思うんだもん、と、心の中で言ってると。
「オレ、何て呼んだらいいですか?」
高瀬が急に、そう言う。
「多分この先ずっと、お世話になると思うので」
『おー。そうだな。……俊、でいいよ。俊兄は恥ずかしいだろ』
「じゃあ、俊さんで」
言いながら、オレの頬をぷにぷにして、高瀬が笑ってる。
『今日はほんとに、ありがと。圭も高瀬君も、助かったよ』
俊兄がそう言うと。
「いいえ。来海ちゃんと真宙くんに、また遊んでねって伝えてください」
『あー。伝えたら、ほんとに遊ぶ事になるよ?』
「もちろん。いいですよ」
高瀬はクスクス笑う。貸して、とスマホを受け取って。
「俊兄? ――――……また近々ね」
『おう。夕飯行こ。奢るから』
「うん。暇な時教えて」
『ああ。 じゃーな、またな』
「うん」
――――……切れた。
切れたスマホを見つめて。
それから、高瀬を見上げると。ふ、と笑った高瀬の顔が、近づいてきて。
急に、深く、キス、された。
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