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◇よかった*圭

 契約の事を問い合わせてみると、オレのマンションは二年契約だったけど、人気のマンションだから次がすぐ入るだろうってことで、拍子抜けな位すんなりと今月いっぱいで解約できることに決まった。逆に言えば、あと二週間で家を綺麗に片づけて、出なきゃいけない。  色々な手続きの事などを聞いてから電話を切ると、ソファの隣でオレの電話を聞いていた高瀬と視線が絡む。 「良かった、スムーズで」 「うん。ていうか、逆に早く用意しなきゃって感じかも」  日付を逆算しながら、んー、と考えていると。  高瀬がオレを見て、ふ、と笑った。 「今日行こっか、織田んち。荷物まとめに」 「え。いいの?」 「良いに決まってる。うちに来てもらうためだし」 「……ありがと、高瀬……」  嬉しすぎる。高瀬、優しすぎる。  ありがとうしかない。  じーん、と浸ってると、高瀬はクスクス笑いながらオレの頬に触れた。 「昼前に行く?」 「うん」  頷くと、頬の手がオレの頭に回って、優しく撫でられた。  そうしながら、高瀬がソファから立ち上がった。 「とりあえず、持ってこれるものは持ってきて、業者に運んでもらうものまとめて……かな。頼む荷物を確認してから、運送屋に聞こっか」 「うん」 「二週間って言っても平日仕事だし、片付けられるのは今日と来週の土日だもんな。月末の週末には出るとなると、結構忙しいよな」 「うん。そうなんだよね」  オレも立ち上がると、高瀬が歩き出しながらオレを振り返った。 「織田、来て」 「うん?」  ついていくと、高瀬が寝室の隣の部屋のドアを開ける。 「ここさ」 「ん?」  中に入ると、少しの荷物が置かれてるだけの、空き部屋。 「織田の部屋、ここでいい?」 「高瀬がいいなら、オレはどこでもいいよ」 「ん。じゃあ決まりな」 「ありがと」 「ベッドも一応置いとこ。絵奈も来るし、誰がいつ来るかも分かんないしさ」 「うん……」  自分の部屋にベッドか……。  まあ、男二人で暮らしててベッドが一つしかなかったらおかしいから、まあ、当たり前といったらそうなんだろうけど……。 「でも一緒に寝ような?」  少しだけ考えてたら、高瀬がすぐに、そう言ってくれた。 「あ、うん」  すぐに浮上して、うんうん頷くと、ぷ、と高瀬が笑う。 「別々に寝るとか考えたんだろ、織田」 「う、うん。ちょっとだけ……」 「そんな訳ないだろ」  クスクス笑いながら、高瀬がオレの腕を引いて、頬に触れると、ゆっくりと、キスしてくれる。   離されて、じっと、高瀬を見つめる。 「――――……」  整った顔の、綺麗な瞳を見ていたら、初めて会った時の事を何故か急に思い出した。  入社式で、高瀬の上に書類をばらまいて、何だかクスクス笑われて。そんなに笑わなくてもって思って、顔を見た瞬間、時が止まった。 「――――……どした?」  優しく瞳が緩む。 「――――……なんか……」 「うん?」 「……高瀬にプリント落として、良かったなぁ……って」 「――――……」  一瞬首を傾げて、すぐに意味が分かったみたいで、高瀬が可笑しそうに笑う。 「別にオレ、プリント落とされたから、お前と今こうしてる訳じゃないけど」 「うん、そう、なんだけど……」  じっと見つめながら、色々考える。 「……でも、多分、プリントを落としてあそこで話してさ、一目惚れして、高瀬優しいって思ってたし……もしあれが無くて研修で初めて会ってたら……普通にカッコよくて仕事出来る人、だったかも……?」 「――――……」 「……それでも、好きになったかもしれないけど…… もしかしたら、今とは違うかもしれないなあって思うと」  何だか、オレが話してる言葉を聞きながら、楽しそうに見つめてくる高瀬の顔が嬉しくて、オレも笑ってしまう。 「……やっぱり、落として良かったと思う」    高瀬の腕に、手をかけて、少し背を伸ばして。  そっと、高瀬に、キスした。  あんまりオレからキス、しないからか。  高瀬が、ちょっと驚いたみたいに、固まってるけど。 「……何が人生を変えるか、分かんないよね? ほんとすっごい不思議」    オレがそう言うと。  目の前の、めちゃくちゃカッコいい人は。  大好きな、優しい笑みを、浮かべる。 「――――……織田がドジで良かった」  クスクス笑いながらそう言って、オレが何か言うよりも早く、頬に手をかけてきて。唇が深く重なってきた。

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