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◇食器を揃えるとか*圭
……高瀬は、キスが好き。
オレも、高瀬とするの、好きだけど。
高瀬はもっと好きな気がする。
色々片付けてたりしてる時でも、何かのタイミングで、キスしてくれる。
唇の時もあるけど、頬だったり、額だったり、なんか、髪の毛だったり。
なんかその度に照れてしまうオレ。
だってなー……。
なんなの、もう。
かっこいいんだもんなぁ……。
困る……。
そんな事を考えながら、あれこれ捨てたり、高瀬の家に持っていくものを仕分けたりしていると。
「なあ、織田」
「ん?」
下に膝をついたまま振り返ると、高瀬が何だか嬉しそうな顔でオレを見てた。
「何々?」
オレも嬉しくなって、高瀬を見上げて聞くと。
「あとで食器買いに行こ?」
「食器?」
「ちゃんと、二人用でそろえてさ。織田も好きなのも、探そ」
「うん!」
そう頷いて、そのまままた、片付けを再開したのだけど。
――――……食器、か。
……食器。二人用の。
そろえる。
考えれば考えるほどに、どんどん嬉しくなっていく
だって。……二人用の食器をそろえる、とか。
……本気で二人で暮らそうって時じゃないと、言わないよね。
いや、もちろん、引っ越すとか言ってるんだから、そう思ってくれてるのは、分かってるんだけど。
なんか、具体的に、そういうの言ってくれると……。
――――……食器揃えて、それを二人で使いながら、一緒に暮らしてくのかぁと、思うと。
やっぱり、嬉しいな。
「高瀬、あのさ」
「ん?」
オレが立ちあがって振り返り声をかけると、後ろで本棚の本を袋に詰めててくれた高瀬もオレを見つめ返す。
「食器さ、嬉しい、揃えるの」
「――――……」
そう言ったら、じーっと見られてしまい、ん? と思ってたら、ふ、と笑われた。
「何? さっきからずっと考えてたのか?」
「あ。うん。そう。……揃えるのかーって、想像してた」
なんだかすごく可笑しそうに笑われてしまって、恥ずかしくなりながらそう答えると。
歩いてきた高瀬の手が、ぽふ、と頭に置かれる。
そのまま、両手で両頬を挟まれて、引かれて、ちゅっとキスされた。
「ほんと、織田って、可愛いよな」
そのままぷにぷにと頬をつままれて、まっすぐ見つめられて。
優しく緩む瞳に、見惚れてしまう。
ほんとにキス、好きだなあ。やさしい、キス。
すごくなんか……照れくさくなる位、優しい。
「……そういえば、オレ、食器なんて買ったことないかも」
「ああ。無い?」
「高瀬はあるの?」
「一人暮らしする時、少し買った」
「一人暮らしする時は、なんか、母さんが余ってる食器、あれこれ詰めてて、それで足りちゃった」
「ああ、そうなんだ」
クスクス笑われる。
「貰ってきた食器、どうしようかなあ。返そうかなあ……あ。引っ越すって連絡しないと」
「ん、そうだな」
「何で引っ越すのって聞かれるよね……」
「んー……まあ、聞かれるかもな」
「学生時代ならあるかもだけどさ。社会人になってから、男とってあんまり聞かないかなあって思って」
「んー……そう、だな。まあでも、最初は、良いんじゃないか、同期が近くで一人暮らししてたから、ルームシェアするんだって言っておけば」
「うん。そーする」
うんうん、頷いてから、ふ、と気付く。
「最初はって?」
「ん?」
「今、高瀬、最初はって、言ったでしょ?」
高瀬を見ながらそう言うと、高瀬が、苦笑い。
「……まあちょっとは、考えたよ。いずれはほんとのこと、言えたらいいなとか。それ位」
「――――……」
クスクス笑う高瀬をオレは見上げる。
「……オレも。そう思う」
いつか、家族みんなにも、ほんとのこと。
言えたらいいな。
そう思いながら高瀬を見ると、高瀬もそうだな、と笑う。
「とりあえず、オレは先に絵奈に言おうかな。絶対大丈夫な気がするから」
高瀬はクスクス笑うけど。
どうだろう。
大事な大好きなお兄ちゃんが、男と、とか。
……許されるかな? と、ちょっとドキドキしたりもする。
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