196 / 235

◇ブレーキなし*圭

 何がカッコいいか?  いや、もう、やっぱり全部だなあ、全部。  顔も、姿形も、指も、動きも、声も、話す言葉も。  完璧、カッコいい。  ていうか、きっと、シルエットだけでも、カッコいいって分かる気がする。 「織田、このあと、どうしたい?」 「……ん」  ぼーと、見つめてたら、目の前で少し手を振られる。 「わ、びっくりした」 「――――……何そんなめちゃくちゃ見てんの?」 「……えーと……うん、あの……ごめん、なんか」 「うん」 「……カッコいいからさ。何がこんなにカッコいいのかなあって、考えてた」 「――――……」  なんだか高瀬がものすごい真顔でオレを見た後、吹き出す。 「織田、ほんと何言ってんだろ」 「…………確かに。オレ、何言ってんだろ」  あははーと笑って、気にしないで、と言うと、高瀬はさらに面白そうに笑う。 「この後どうしたいって聞いたんだけど」  高瀬に言われて、んー、とちょっと考える。 「どうしよう? 高瀬、買い物はもう良い?」 「ん。とりあえず、良いかな。何かあれば、また来週出れば良いし」 「うん。そだね」 「今日夕飯どうする?」 「んー……高瀬が飲みたいなら、家の近くのお店でもいいし……」 「飲まなくてもいいよ」 「じゃあ食べて帰るか、買って帰るか?」 「ん、じゃあ……家でゆっくり食べる?」 「うん。そうしよっか」  外でもいいけど、高瀬、目立つし。  こうしてても……ていうか、この店はかなり特殊だったけど。  女子の視線がー……。  ――――……毎回思うけど、本当に、目立つ。  何でオレこの人と……っていう、いつものループに入りそうになるけど、何とか、ストップ。  オレが高瀬を好きで、高瀬も、オレをなぜか好きって言ってくれるから、一緒に居る。ってことだよね。うん。  ……ぁ。なぜかって、また言ってるし。オレ。  やれやれなツッコミを自分にしながら、そういえばここは地下に大きな総菜コーナーがあったなあと思い出す。 「高瀬、下の食料品のとこ行って買う?」 「そうだな……」  考えながら、高瀬はクスッと笑う。 「前ここ来た時、食べきれない位買ったよな」 「だってすごい色々種類があったから」 「そうだけど……なんか織田が、あまりに楽しそうだったなあって……」  その時のこと思い出してるのか、高瀬はずっとクスクス笑ってる。    オレ達は、入社してからずっと一緒で。  仕事中も、飲み会とかも、ごはん食べに行ったりも、かなり一緒で。  帰社時間も大体一緒だし、もうほんとに「同期の仲良し」として過ごした時間がかなり、長い。  その間、ずーっとオレは、高瀬を好きだったけど。  忘れるまで好きでいようなんて思ってたけど。  でも、好きになりすぎると困るから、自分の中でブレーキをかけようとする気持ちが、きっと、あったんだろうなって思う。  ……ちょっとは、幻滅するとか、やっぱり女の子の方がいいなと思うとか、そういう恋じゃないなとどこかで悟ればいいなーと、思う部分もあったと思うし。  それでも、大好きで、ほんと困ったけど。  高瀬を好きで居て良いんだってなってからは、無意識のブレーキもなくなってしまった気がする。  ……何だろうこれ。  オレ、マジで、無限に好きになれちゃうのかもしれないな。  高瀬見てると、心臓なのか、とにかく胸の奥がきゅーっていうのが、これが世に言う、キュンってやつだろうなと思うんだけど。  もう毎日、ドキドキも激しいし。  オレの心臓、いつもいつも負担かけてごめん、て気になってくる。  そんなことを本気で考えていたら、高瀬がニコ、と笑ってオレを見つめた。 「家でだったら少し飲んでもいいな。つまみ作ってもいいけど。どうする?」 「え、じゃあそうする。高瀬、何作る? 手伝う」  そう言うと、高瀬がまた瞳を緩めて、優しく笑う。 「手伝ってくれんの?」 「うん」 「織田が好きなもの作るよ、何がいい?」  楽しそうな高瀬に。  どうしたって、めちゃくちゃときめく。    もう、ブレーキかける必要がないんだなってことが、すごく嬉しかったりする。

ともだちにシェアしよう!