197 / 236

◇ポカ*圭

 週末を、高瀬の部屋で過ごして。  月曜日。  お揃いだけど、お揃いに見えないタイピンをして、ご機嫌で、出社したのだけれど。  朝のミーティングがあって、その日、高瀬は午後から取引先に行くことになってしまって、ちょっとがっかり。  ……なってしまった、って、仕事だからしょうがないんだけど。  夕方まで帰ってこれないみたいで、渡先輩と高瀬は、家に直帰することに決まった。 「織田とオレ、どっちが帰り早いかな」 「どうだろうね」  隣の席に戻った時、高瀬がこそ、と囁いてきたので、首を傾げる。 「オレ今日は急ぎのものないけど……」 「じゃあ織田の方が早いかもな。夕飯、どうする?」 「んー……オレ今日は、自分ち帰ろうかな?」  そう言うと、高瀬はちょっと眉を顰めつつも。 「……んーなんか今日行くとこさ」 「うん」 「飲みに付き合わされそうなんだよ」 「あ、そうなの?」 「向こうの人が好きなんだって、渡先輩が言っててさ。オレ、何時か分かんないから、織田が楽な方でいいよ」 「じゃあ今日は帰って、ちょっと荷物とか、整理しとくよ」 「……まあ、寂しいけど、しょうがないか……」  ……寂しいけど。だって。  高瀬。  うー、なんか、すごい嬉しいんだけど、どうしよう。  そんなさりげなく、寂しいとか言ってくれちゃうとか。  ……大好きすぎる。  一人静かに、じーんと悶えていると。  先輩たちが戻ってきてしまったので、仕方なく仕事に戻った。  戻りはしたけど。    高瀬、オレが自分ち帰っちゃうの寂しいんだ。  なんて思うと、とってもウキウキしてしまい。  仕事も楽しくてしょうがない。    ◇ ◇ ◇ ◇  ……なんて、幸せに午前中を過ごし。  高瀬と渡先輩を、送り出した午後。  ある電話で、オレの予定は一変した。 ◇ ◇ ◇ ◇    「……そろそろ、ごはん食べようかなぁ……」  自分の周辺以外は明かりの消えた職場を見回して、それから時計に目をやると、二十二時過ぎ。  自分でも呆れる程のコトをやらかしてしまった。  入社して半年。仕事も大分慣れてきてた。ユーザーとの打ち合わせを行い、それによって納期までのスケジュール管理を行うのも、仕事の内。今まではそこまでの大きなミスもなく、うまくこなしていたのに。  完全に日付を勘違いして全く疑問にも思わず、余裕をかましていた所へ、問い合わせの電話が入った。  焦りながらも何とか話を付けて、来週までにある程度形にして持って行くことができれば、ペナルティにはならない事にしてもらえた。  手伝うというチームの先輩たちに、とりあえず今日明日、一人で出来る所まで頑張ってから、お願いします、と言った。  あくまでこれは、納期管理を任されていた自分の責任。一年目だからといって甘えるべきではないと、思ったから。  とりあえず一気に出来る所まではやり終えて。  残りはご飯を食べながらにしよう、なんて思って会社を一旦出た。  あ。高瀬、どうしたかなあ。  まだ連絡来ないってことは、飲んでるのかな。  大変……。  さすがに午後は精一杯で、スマホを見てる暇もなかったけど。    まだ連絡来てなくて良かった。  早くに連絡来てたら、心配させるとこだった。  なんて、ちょっとほっとする。

ともだちにシェアしよう!