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◇大好き*圭

 にしても、今日は高瀬の家に行くことにしてなくて良かった。  なんて思いながら、一番近くのお弁当屋さんに入って、何にしようかなと考えて居た時。  ポケットでスマホが震え出した。  高瀬だったので、いったん店を出て、電話に出た。 「あ、もしもし? 高瀬?」 『……もしもし、じゃないだろ?』  少し間を置いて、響いてきたのは、ちょっと呆れた声。 「あれ? 高瀬? 家着いたとこ?」 『――――……今、会社』 「え?」  どういうこと?  と思ったら、高瀬が説明を始めた。 『飲みに行ってて今さっき別れたんだけど、明日の午前中にデータ送ることになっててさ。どれくらいかかるか分かんないから、少しやってから帰ろうと思って、先輩とも別れて、今会社に来たところ』 「……あー……メール、見ちゃった?」 『見ちゃったよ』  高瀬の苦笑いが聞こえる。  今日のオレのポカが、グループメールに、事態報告として入ってて、当然高瀬も、そのメンバー。 『……しょうがないな、ほんとに……今どこ?』  呆れたようなため息。 「ごめん……今、ごはん買いに出たところ」  謝りつつも。  ……なんか、高瀬の声聞いて、ほっとした。  こんな時でも、声が聞けて嬉しいと思ってしまう。 「自分でもしょうがないなあ、と思う……」 『って……そうじゃないよ』 「ん??」 『オレ、ミスった事を言ってんじゃないからな?』 「え?」 『何でオレに、言ってこないの?――――……オレに、電話してこないってことに、今文句言ってんの、オレは』 「え……だって」 『だってじゃないだろ。織田が、自分の責任って言って、他の先輩の手伝いは断って頑張るっつったのは良いんだよ? じゃなくて、何でオレに、言わないの?』 「――――……」 『他の先輩らとオレと、お前の中では同じな訳?』 「――――……高瀬……」  何と答えて良いか分からず、名前を呟く。  すると、ふ、と息を付いた高瀬が、ふわ、と声を優しくした。 『早く、会社帰って来いよ。向こうの人たちと一緒であんま食った気しなかったからさ、何か適当におにぎりとか、一緒に買ってきて?』 「――――……」 『織田が手伝ってほしくないなら、手伝わないけどさ。オレも自分の仕事しながら側に居るし。なんか分かんないことあれば聞くし。早く終わらせて一緒に家帰ろ?』 「――――……」  ああ、なんかもう。  優しすぎて、無理。  ――――……高瀬、好きすぎて。   「……おにぎりがいい? 具は?」  聞くと、高瀬が少し笑う気配。 『鮭』 「いっこでいいの?」 『少しは食べてきたから』 「飲み物は?」 『コーヒー持ってる』 「分かった。すぐ行くね」 『ん、待ってる』  電話を切って、その切れた画面を見つめて。  ――――……微笑んでしまう。  高瀬、大好きすぎ。    やらなければいけないことは何も変わってない。  手伝ってもらわないで、一人で頑張ろうと思ってることに変わりはないし。  でも、高瀬が隣に居てくれて。  一緒に帰ろって言ってくれたことが嬉しくて。  さっきまでとは打って変わってご機嫌で、お弁当屋さんに足を踏み入れた。

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