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◇頭ぽんぽん*圭
口に入れやすそうなサイズの唐揚げを箸で掴んで、高瀬の口に近づける。
ぱく、と食べてくれる。
「――――……」
ドキドキドキドキ。
……ああ、オレってば……。
本当に、男にこんなにドキドキする日が来るなんて思いもしなかったよなぁ。高瀬に会うまで。
高瀬と一緒に居る時間も増えてきているのに、最近なんて一緒に暮らしてるみたいな感じで過ごしてるのに。
「うま」
「……ん」
笑ってくれると、嬉しい。
別にオレが作ったんじゃないのだけど、それでもなんだかすごく嬉しい。
「今日さ、高そうな店連れてかれてさ、唐揚げも食べたんだけど……」
「ん」
「織田と食べる方がうまいって思うから不思議。多分あの店の人に言ったら怒られそうな気がするけど」
クスクス笑いながら、高瀬はそんな嬉しいことを言ってくれる。
分かる分かる。オレも、どんな高い店に行くより、高瀬と家で食べる方が、美味しい気がする。
「もっと食べる?」
「ん、じゃあ、あと一こだけ」
もう一度、高瀬の口に、唐揚げを食べさせて、幸せに浸るオレ。
「あ、豚汁もうまいよ」
「良かったー」
どれどれ?と、オレも自分の豚汁を口にする。
「ほっとするー……って会社だけど」
「誰も居ない会社で食べてんのも、変な感じな」
そだね、と二人で笑って、少し黙ると、しーんと、静か。日中の騒がしさが嘘みたい。
「……この部屋って、カメラは無いんだよな」
「うん。そう聞いてるけど」
「……実はあるのかな?」
「どうだろうね? わかんないけど。なんで?」
「ほんとに今キス、したら、バレるのかなーと思って」
「――――……」
高瀬の言葉に目が点。
「っだめだめ、バレたら、隣で仕事できなくなっちゃうかもよ」
「……そうだな」
「異動とかなっちゃってもやだし」
「そうだな」
「……だから、ダメ、だよ?」
でもキスしたいけど。
……思いながら言うと、
「そういう顔すると、しちゃうけど」
高瀬のセリフに、プルプルと首を振る。
「こそこそして、そういうことすんの、興奮する?」
「…………っドキドキで死んじゃうと思う」
言うと、高瀬は可笑しそうにクスクス笑うと、おにぎりの最後の一口を口に入れて、ご馳走様、と言った。
「こ、んなとこで興奮しちゃだめだし」
「んー?」
少し首をかしげて、高瀬が笑う。
「馬鹿だな、織田。……こんなトコだから、興奮するんだけどね」
「――――……っ」
何だか、意味ありげに、ふ、と斜めに見つめられて。
またかぁっと赤くなる。
「なんだかなぁ……ほんと織田って、可愛いよな」
楽しそうに笑う高瀬に、絶対からかわれて遊ばれてることは分かるのだけれど……でも、なんか優しく笑われてると、もう何にも言い返す言葉さえ、見つからない。
「じゃあ……キスのかわりな?」
「……?」
何をするのかと思ったら、立ち上がった高瀬が、オレの頭をよしよしと撫でた。咄嗟に見上げたオレと目が合うと、めちゃくちゃ優しく微笑まれて。
「……これくらいなら、見られたって、問題ないだろ」
クスクス笑って、最後に頭をポンポンと叩く。
「ちょっと、左手洗ってくる」
オレを撫でてた手は反対の方をオレに向けながら、高瀬が部屋を出て行ったのだけれど。
……なんかもう。心臓撃ち抜かれた気分のオレには、気づかれなくて良かった。なんて、思うほどに、ものすごいドキドキしてる。
……頭撫でるだけでこんなに、心臓やられるって、どういうこと……。
帰って来るまでに復活しないと……。仕事しないとだし……。
そう思うんだけど、ぽわぽわしつくした頭は、なかなか戻りそうになかった。
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