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◇朝のひととき*拓哉

 翌朝。オレの方が先に目が覚めた。  あと十分位は寝かせてあげててもいいなと、時計を確認。  そのまま、織田の顔を見つめた。  ……すやすや、といった表現がぴったりな感じで、寝てる。  ほんと、可愛いな……。  この瞳が開くと、いつもまっすぐにオレを見て、笑う。  なんだかとても、嬉しそうに。  初めて会った時から、まっすぐに、向かってくる瞳。  オレが、それをどんなに好きか、織田はちゃんとは知らないだろうなぁ……。 「――――……」  昨日は、珍しく、何もしないで寝たかも。  ……織田といるといっつも触っちゃうからな……。  昨日はさすがに疲れてるだろうし、今日も忙しそうだったから、かなり自重したけど。 「……あ」  急に目をぱっちり開けて、声を出した織田と、ばっちりいきなり目があった。 「……おは、よ」 「おはよ、織田」 「……びっくりした。目が、いきなり合うから」 「顔見てたから」 「……高瀬って、いっつもオレの寝顔、見てない……?」 「見てる」 「……オレ、変な顔、してない?」 「……んー、まあ……ちょっとしてる時もあるかなあ」  何を言ってるんだろうと思いながら、ちょっとおもしろくて、そう言ってみたら、織田はうわーと顔をしかめる。 「やっぱり? ……見なくていいよー、半目開けてる時とか無い?」 「……あったかなあ……」 「えっあるのー??!」 「何で聞くの?」 「弟が半目あけて寝るからさーそれ面白くて……でもオレもだったとは、知らなかった……」  朝から妙なことにショックを受けて、ずずーん、と沈んでる織田に、オレは我慢できなくて、ぷっと笑い出した。 「半目ないし、変な顔してる時も無いよ」 「えっ」 「いつも可愛く、スヤスヤ寝てるよ」 「……ほんとに?」 「ほんとほんと。今度写真とっといてあげようか?」 「いやいや、大丈夫。寝顔とか、恥ずかしい……」  無理無理と言いながら織田が苦笑い。 「……そろそろもう起きる時間?」 「そうだな、そろそろ」 「分かった」  もぞもぞ起き上がって、ベッドの端に座ってから、ふと、オレを見る。 「ん?」 「――――……」  もう一度ベッドの上に乗っかってきたと思ったら。  ぎゅ、と抱きついてきた。 「昨日は、なんもしないで、寝たなーって、ちょっと思って」 「……」 「あ、違うよ、してほしかったとかじゃないんだよ。って、してほしくなかったって訳でもないんだけど……って、オレは一体何が言いたいんだって、思うよね」  一人であわあわ慌ててるのが、たまんなく可愛いけど。 「違うんだよ、そういうんじゃなくて……」  もう一度、ぎゅ、としがみつかれて。 「……なんとなく、ちょっとだけ、くっついておいただけ」 「――――……ふ……」 「あ。笑われてる……」  織田は、ちょっと恥ずかしそうに言いながらも。  すりすりオレにくっついてから、ぱ、と離れた。 「ありがと」 「もういいの?」 「うん。補充完了」  そんな風に言って笑う織田にまた笑ってしまいながら。 「じゃあオレも」 「え」  びっくりした顔の織田を引き寄せて、抱き締める。 「――――……高瀬?」 「オレも。さっき昨日しなかったなーって思ってた」 「…………」 「それはそれで、別に良かったんだけど」 「うん。だよね。それはそれで、なんか良かった」 「……今日は早く帰れるといいな」 「うん。オレ次第だよね。頑張りまーす!」  意味が分かってるんだか、分かってないんだか。  織田は楽しそうに言って、オレを見上げて笑った。    

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