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◇やっと金曜*拓哉
その週は、本当に忙しかった。
織田が遅れた仕事を優先にしたので、その分の仕事のスケジュールを見直して、手伝えるところは手伝ったり、途中で別のバグがあって対応に入ったり、お互い忙しくて、話すのも仕事の話だけになった。
家には一緒に帰っていたけれど、帰りも遅いし、軽く夕飯を食べて風呂に入って眠るだけ。それでも、一人で忙しい時に比べたら、織田を抱き締めて眠りにつくだけで、大分和んでは居たけれど。
やっと片が付いて、織田の仕事も、なんとか問題にならずにこのまま進められることが決まったし、まあ気をつけろよとは、上司や先輩たちにも言われていたけれど、その後、よく頑張ったなとも褒めてもらえてた。ついでに一緒に頑張ってたということでオレまで褒められ、二人でなんとなく苦笑い。
やっとほっとして、金曜の仕事が、夕方に終わった。
「高瀬―、美味しいもの食べに行こうよー」
先輩たちに終業をOKされると、織田がそう言って、オレを見つめてきた。
「なんか今週、食事って、ただ詰め込むだけとかだった気がしてさ。すっごくおいしいものが食べたい」
「そうだな。いいよ、どこ行く? 何食べたい?」
「んー、何にしようかな。出たら調べよ」
「ん」
二人で周りに挨拶をして、会社を出た。
どっち方面に歩くか決められないので、二人で会社のエントランスを出たところで、立ち止まった。
「何系が良いかなあ。とりあえず美味しいものって検索してみよ」
織田がものすごく漠然としたものを言ってるので、笑いながら、オレもスマホを取りだした。
「酒飲みたい?」
「うん、飲みたい! お酒も美味しいとこがいいな」
「ん」
頷いたその時だった。手に持っていたスマホが着信で震えた。
「あ、電話?」
「ん。……大学の友達」
「出ていいよ、オレ調べてるから」
後でもいいけど、と思いながらも、すぐ済ませてしまおうと、電話にでた。
「もしもし、|誠《まこと》?」
『あ、拓哉でたぞー』
「……? 何だよ?」
『拓哉、いつ来る?』
「え?」
オレの返事を聞いて、誠が、あーやっぱりーと叫んでる。
『皆で集まろうって言ったじゃん。仕事終わればっていうから、ちゃんと日時送っといたけど。一応既読はついてんだけどな』
「……ちょっと待って」
メッセージアプリを起動して、確認。
……ああ、一旦開いたみたいだけど。……全然、見た記憶が無い。
その最初の電話も、昼休憩の急いでる時で、適当に頷いて、送っといてと終わって、今まですっかり忘れていた。
「悪い。今週忙しくて」
そう返事をしていると、織田が、ん?と、オレを見上げてる。
『いいけど。もう仕事終わってんだろ? 来れる?』
「あ、いや……」
『え゛-? 来れないの?』
「今日会社の同期と約束してて」
『はー?? 同期? 一人?』
「まあ一人だけど。だから余計に行けない」
そう言うと、誠が向こうで皆にそれを話してる。
わかった、またな、というだろうと思って待っていると。
『じゃあ、その同期も一緒に来たら?』
「は?」
オレは、きょとんとしてる織田を、見下ろした。
「いや、でも……」
『そいつに聞いてみたら?』
「――――……」
話は聞こえていないみたいだけど、織田は何やらニコニコしながら、オレを見上げている。
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