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◇一緒に飲みに?*拓哉

「何々?」    織田が何やら察知してて、小声で聞いてくる。 「もしかして、約束があった?」 「……あー……ていうか、聞いてたけど、日時とか入れといてって言ったきり、忘れてたっていう話」 「そうなんだ。今日だったの?」 「ん」 「そっか……じゃあ高瀬、そっちに行っても、いいよ?」 「え?」  織田はクスッと笑って、電話には聞こえないように。 「オレは、明日ゆっくり高瀬と美味しいもの食べにいければ、全然。先に帰ってるよ?」  織田は、ほんとに良いよと思ってそうだが。  そんな訳にはいかない。 「いいよ、別にまたすぐ会うだろうし」 「いつぶりなの?」 「二、三か月位……?」  そう言うと、織田は、んーと考えた後。 「いいよ、ほんとに。家で待ってるから」  何だか本当に先に帰ってしまいそうな。  全然嫌そうでないのが織田のすごいとこだと思うんだけれど。 「織田、一緒に行く? 嫌じゃなければ」 「え?」 「一緒に来れば? って言ってるんだけど」 「ん? オレが一緒に行くの? 高瀬の友達のところに?」 「……ちょっと待って」  さすがに織田もちょっと不思議そうなので、オレは、もう一度スマホを耳に当てた。 「誠ー、ほんとに一緒で良い訳?」 『ん? ああ、良いって言ってんじゃん。前に佐藤の彼女とかもついてきたことあったろ』 「……ああ。そういや、そんなこともあったけど……」  ちら、と織田を見つめると。ん? にっこり笑う織田。 「……来て良いって言ってんだけど……どうする?」 「えーと……良いなら行くけど」  けろっとしてそう言って笑う織田に、ああ、そういうタイプだっけな、と苦笑い。  一瞬、大丈夫か聞こうと思ったけれど、これは大丈夫だなと、判断した。 「……じゃあ連れてく。店は?」 『地図とかも入れてある。待ってるからー』 「了解」  電話を切って、場所を確認する。 「近い?」 「ん、電車乗って十五分位」 「そっか。行こ行こ」  織田がオレを見上げてにっこり笑う。 「ほんとにいいのか?」 「え? いいよ。だって、オレも高瀬の学生時代のこと知りたいし」 「……いい話じゃないかもよ?」 「そう? でも別に。だって、なんとなく知ってるような気がするし」  歩き始めながら、そんな話をしていると、織田がそう言って笑った。 「クールな感じでモテモテだったんでしょ?」 「――――……」 「なんとなく分かるから、平気。どんだけカッコよかったか、聞きたいだけだから。聞けると思うし」  絶対本気なんだろうなと思う表情で、そんなことを言って笑うから。  オレまで、笑ってしまう。 「高瀬がモテるのなんか知ってるし、学生時代とかに、誰とどれだけ付き合ってたって平気。……ていうか、オレも結構モテたし」  悪戯っぽく笑う織田に、そうだろうな、と返すと。 「……そこ、つっこんでくれないと、恥ずかしい」 「え、何で? 織田は、モテたと思うけど?」 「オレより百倍モテてそうな高瀬に言われると、余計恥ずいです……」  困った顔をしているのが可笑しくて、くしゃ、と髪をなでると。  ますます照れてるし。  どうしてこんなに可愛く生きてこれるのか、謎。  なんて。また思ってしまった。

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