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◇すごい*拓哉
店に着いてドアを開ける。迎えた店員に待ち合わせと伝えて、中に進む。
「あ、居た。織田、あそこ」
「あ、うん。たくさん居るんだね」
今日は十人位だな。
振り返って、織田の顔を見つめる。
「大丈夫そう?」
「うん。別に。平気だと思う」
……ほんとにすごいと思うけど。
「あ、拓哉ー」
気づいた皆が、呼んでくる。
頷きながら、近づいてテーブルの端、誠の隣に立った。
「拓哉、ちゃんとスマホ見ろよー」
「今週はほんとに忙しかったんだよ」
そう答えてから、後ろに居る織田を振り返る。
皆が、おー、と声を上げて笑う。
「高瀬の同期?」
そのセリフに、織田は「うん」と答えてから。
「織田です。よろしく」
と 言ってにっこり笑った。
「わぁ、織田くん、可愛いー」
女子の一人がそんな風に言う。
「分かるー可愛いー!」
答えてまた女子の言葉。
「高瀬と大分タイプ違くない?」
クスクス笑って言った友達に、織田がニコニコ笑ってる。
「とりあえず座れば」
誠が少し避けて、ちょっと詰めて―、と周りに言う。
誠の隣にオレ、オレの隣に織田が座った。長机を囲んだ席。織田は結構ど真ん中付近に座ることになった。
……けど、全然平気そう。周りの皆に、どーも、とか言って、笑ってる。
「二人、何飲む?」
「織田、メニュー見る?」
「ううん、最初はビールでいいよ。高瀬もでしょ?」
「ん」
「織田くん、で良い?」
「うん。よろしくー」
向こう側の皆に話しかけられて、楽しそうに話し始める。
オレが気を遣う必要も無さそうで、ちょっと笑ってしまうと、隣の誠も、笑い出した。
「違和感なく溶け込んでるんだけど。すごくねえ?」
「ん。いつもそういう感じ」
オレが言うと、へー、と誠も笑うし、聞いていた皆も笑う。
「すごいよな」
言った瞬間、織田がくる、とオレを振り返りながら、皿を差し出してきた。
「お皿とお箸だって」
オレを見て、ふ、と笑んで、目の前に置いてくれる。
「織田くん、から揚げ食べる?」
「食べるー。高瀬も食べるでしょ?」
「取ってあげるからお皿ちょうだい」
「うん。あ、高瀬のも欲しい」
そんなことを言いながら、オレの皿も回してる。向こう側の女子たちと交わしているやり取りをみながら、誠が笑いながら。
「マジですごいね?」
なんて驚いてる。
「んー、まあ。……オレは慣れてるから」
ぷ、と笑ってしまいながら、誠に答える。そこへ、頼んだビールが運ばれてきた。
「あ、ビール来たな。じゃあ皆、拓哉と織田くん来たので改めて」
誠がグラスを持って立ち上がって言うと。
「高瀬の会社でのこと、織田くんに色々聞こうぜ~」
「さんせー」
浮かれてる皆に、オレが呆れてると、織田がふ、とオレを見て。
なんだかすごく楽しそうに、ぷはっと、笑う。
「高瀬はカッコよくて仕事できる、ってだけだけどね。モテるし」
クスクス笑いながら織田が言うと、女子は「やっぱりー!」と叫ぶし、男子は「おいおい、聞きたいのはそんなんじゃないから!」とか、織田に、詰め寄ってる。
「まあ各自色々話そうってことで……はい、かんぱーい」
「カンパーイ」
一口飲んでから、「織田」と笑ってしまうと。
「あは。ついほんとのことを……」
とか言って、クスクス楽しそうに、笑ってる。
何だかな。
オレにはできない。
いくら織田の友達だからって、そこに一緒に行って、織田の友達と仲良く話し始めるとか。
違和感なく混ざるとか。
できないというよりは、したくもないというか。
でもなんか、それをできる、織田がすごいなと、もはや尊敬に近いのと。
なんか、楽しそうに笑ってるのを見ると、なんかほんと。
可愛く思えてしまって。
あー。なんか。
……キスしたい。
とオレが今、織田を見てそう思ってるなんて。
絶対誰も、思わないだろうなと思うと、苦笑が浮かんだ。
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