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第3話 赤鼻のトナカイ
「イヴデモ……本部?」
赤鼻のトナカイ青年に言われ、半強制的にユーザー登録なるものを済ませられた奈斗は、自分の左手の中指を見た。そこにはゴールドリングが嵌まっている。何か読めない文字が刻印されているが、それが反応する人──そいつももちろん、トナカイのツノが生えているはずだ──が、奈斗のパートナーだそうだ。イヴデモの歴史は古く、今から十六世紀ほど前、サンタクロースの誕生とともに生まれたらしい。当時、過酷な労働を強いられてきたトナカイの一部が発起して組織したものなのだそうだ。
「そもそも、イヴデモって何なんだ?」
「クリスマスイヴデモ。略してイヴデモですね」
「デモってあのデモか? だけど、誰もデモなんかしてないぞ……?」
「我々のデモは、休暇を取り、遊ぶことです。つまり、イヴの日にここでのんびりバカンスを楽しむのが、いわゆる我々トナカイ流の、示威行動なのです!」
なかなかデモンストレーションの本質を突いているでしょう? と赤鼻のトナカイ青年は、自慢げに言った。
「けど、俺、トナカイでも何でもないぞ」
「何言ってるんですか。ホラ」
奈斗の言葉を赤鼻のトナカイ青年は鼻で笑い、二人の足元の影を指した。
そこには立派なツノの生えた奈斗が、赤鼻のトナカイ青年と一緒に影を落としている。
「えっ!? あれっ!?」
頭上を手で探ってみると、ツノが生えている。しかも、それなりに重い。
「みんな最初はそういう反応なんですよ。でもじきに慣れます。奈斗さんこと、ユーザー名、えーと、ナットさん、イヴデモを思う存分、楽しんでくださいね! あ、その指輪の相手と出逢えたら、イベントがあるんで、よろしくです! では、よいイヴを〜!」
「え? あ、ちょっと……!」
トナカイ青年は、ナットと名付けた奈斗のユーザーデータを格納すると、細かいことは適当でいいですから、と、奈斗を広い砂浜の奥にあるコテージへと送り出した。
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