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第6話 サンタの呪い

 開かれた窓から、風がふわりと吹き抜けていく。日差しは午睡の時間の如く、静かであどけない影をコテージの部屋に落としていた。部屋の真ん中には、麻のカーテンに、天蓋付きのダブルベッド。その奥の、ちょうどバルコニーを臨む場所に置いてある、藤で編んだ二人がけのカウチに奈斗が座ると、同じく藤製の、背もたれのないチェアを運んできて、クリスが腰掛けた。 「それで? 何が聞きたい? それともするか?」 「がっつかれるのは好きじゃないんだけど」  初めてなことを悟られるのが恥ずかしくて、奈斗はわざとぞんざいな口を利いた。 「俺はブルネットが好きなんだ。擬態するぐらいにな」 「クリスは、現実社会じゃ、黒髪じゃないのか?」 「ああ。大抵ここじゃ、みんな見た目を弄ってる。ナットみたいな例は珍しい。それにその格好、目立つだろ?」 「はあ……」  奈斗は冬物のスーツにコート姿だ。前は空けてあるが、汗が滲んでくるほど暑い。 「お前、赤鼻の奴に何も頼んでないんだな。服貸してやるから、着ていけ」 「いいの?」 「持たざるものには与えよ、ってな」 「誰の言葉?」 「俺さ」  得意げに言うクリスのドヤ顔が可笑しい。 「でも色は選べないぞ。ここじゃ、みんな赤に白い縁取りだ。サンタの呪いって言われてる」  奈斗がコートを脱ぎ、シャツ一枚とスラックス姿になると、クリスはクローゼットを開けて、適当な服を見繕ってくれた。と言っても、シャツからTシャツまでどれも赤色で、襟と袖口に白く縁取りが施されているものばかり。模様はストライプだったり、ドット柄だったりと多様だが、全部赤地に白が基本だった。  部屋の奥の衝立の裏で着替えて出てくると、クリスは茶髪に変わっていた。頭をひと振りすると、パラパラとホログラムのようにブルネットの色が抜けていく。しかし、アイスグレーの眸はそのまま弄るつもりはないようだった。 「ナットがこっちの方がいいって言うなら、茶髪も悪くないな」 「栗色の髪に栗色のツノ……」 「何だよ。お前がこっちがいいって」 「言ってない。クリスが早合点しただけだって」  言って、吹き出すように笑うと、クリスが穏やかな顔をした。アイスグレーの眸に、暖かな色が乗る。 「やっと笑ったな」

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