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第9話 トナカイの経済学
「頭上で働いてるトナカイがいるのを見ると、複雑な気分になる……」
「あいつらに本気で同情するなら、送金システムがあるから、それ使ってみるか?」
「え?」
「片手でできる。やってみせようか? 流れ星をタップして、メニューが出てきたら、目当てのトナカイを選ぶ。送金を選択して、金額を入力。完了ボタンを押せば、送金完了」
「えっ、そんな簡単に?」
「そ。星見上げて指差してる奴らは、みんな送金してる奴」
「みんな……そんなに? 親戚とか、友だちとかなのか?」
「どうだろうな。でも、トナカイ間で不平等感が出るから、やめてほしいって言ってる奴もいるみたいだから、来年はどうなるかな……」
クリスは言いながら、アイスグレーの眸を空へ移した。
その時、初めて、奈斗は、このイヴデモに「来年」があるのだと実感した。
「あの……、今日が終わったら、次、クリスに逢えるのは、来年?」
「そうだな。毎年、みんな散っていって、戻ってくるなり今年がどんなに酷い年だったか、報告し合ってる奴らもいる。ま、リアルが充実してくると、自然とこなくなる奴もいるけどな。イヴデモのアプリが、アンインストールされる可能性もある。そいつは、もうここへこなくてもやっていけるって太鼓判押された奴だ。トナカイを辞める気になった奴とかな」
「そう、なんだ」
「ま、俺が恋しければ、きっと来年も逢える。断言はできないが、きっとな」
「トナカイである限りは?」
「そのとおり。みんな、ここにいる間は、トナカイを辞められない」
奈斗が黙り込むと、クリスは首を傾げた。
「俺が恋しくなったら、カップリングテストするか?」
「やだ」
「何でだよ。別に痛くないぞ?」
「俺……経験ないから」
クリスの方を向くのが気恥ずかしくて、奈斗が顔をそらすと、アイスグレーの眸が光を宿した。
「そりゃ、断然、俺にしとけ」
「やだって言ったろ。もう帰る……ていうか、どうやって家に帰ればいいんだ?」
「デモは途中下車できない」
「は?」
「途中下車はできないが、赤鼻の奴に頼めば、今まで稼いできた給金に応じて、ローンを組んで、コテージの部屋を買うことができる。交渉してやるから、一緒にこいよ」
「何それ? 金がいるの?」
「先立つ物として、金以上に信頼できるものはないだろ?」
クリスの背中を見ながら、奈斗は、この部屋の値段を考えた。レートはどんな具合なのだろう。これだけ大きな、いい条件の部屋を買うとすれば、それは……。
「クリス……社畜だったんだ?」
奈斗の問いにクリスは、ニヤッと口角を上げ、振り返った。
「俺の場合は即金だったから、参考にはならない」
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