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第11話 赤髪のトナカイ
コテージへ戻ってくると、チャラい赤髪のソバカスだらけの男とすれ違った。
「よう、またブルネット食いか? クリス」
「そんなんじゃない。お前こそブロンド狩りだろ」
奈斗と一緒にいたクリスに、親しげに声をかけてくる。「また」ってことは、クリスが黒髪の誰かを追い回しているのはいつものことレベルなのだろう、と奈斗は思った。チクリと胸が痛む。クリスに構われるのが、別に嫌じゃないと思っている証拠だった。
「ちょうどいい。紹介しとくか。ナット、こいつはサイレント」
「ナットって言うの? ユーザー名? 面白いね」
「よろしくお願いします」
手を差し出すと、両手でぎゅっと握られる。カチリと金属の触れ合う音がして、見ると、左手にプラチナの指輪と、手首にゴールドの腕輪が光っていた。腕輪は誰かからもらったのだろうか。
「ふぅん。なかなか可愛い顔してるね。きみも髪色弄れば?」
金髪とかに、と言われ、奈斗は苦笑した。
「遠慮しときます」
「せっかく可愛いのに。俺に抱かれたくなったら、金髪にしておいで。食べてあげる」
「はは……」
「余計なこと言うなよ、サイレント。お前が言うと冗談に聞こえない」
「俺はいつも本気。誤魔化すなよ、よく知ってるくせに」
「そういうのが余計だって言うんだ。いくぞ、ナット」
クリスはサイレントの額にデコピンすると、奈斗の手を取って、ずんずん歩き出した。
「あの」
「ん?」
「さっきの」
「サイレントか?」
「友だち、ですか?」
気になって尋ねてみると、クリスは繋いでいた手を離し、その手で後頭部の髪をガシガシとかき回し、引っ張った。
「あー……いや。隠すのも野暮だから言うが、あいつとは少し前まで付き合ってた。アレのお相手って意味で」
「クリスのアレ……あれ? え?」
一瞬、頭がバグる。
クリスは左手の中指に、確かプラチナのリングをしていた。ということは……。
「前は金髪だったんだ。だからあいつと気が合ったんだが、互いにマンネリ化して別れた」
「あなたが、下……?」
「んなわけあるか。あいつはどっちもできる、珍しい奴なんだ」
腕輪を見たろ? と訊かれて頷くと、「お前は真っ白すぎて怖い」と愚痴られる。
「あの腕輪、そういう意味だったんだ」
「気をつけろよ? お前狙われてるぞ」
「えっ、でも社交辞令でしょう……?」
「自覚がないのか。……しばらく一緒にいてやるから、変なのに食われるなよ、ナット」
クリスはそう言って、奈斗に連れ立つようにして、コテージのバーへと入っていった。
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