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第12話 本気のコイントス

「あの、俺、別に大丈夫だから……」  失言をしたバーに、失言相手と二人で戻るのは、かなり注目されて恥ずかしいことだった。奈斗は遠慮がちにクリスに席をはずすよう促したが、クリスは頑として動かなかった。 「ナット、賭けをしないか?」  水を頼んだ奈斗の隣りの止まり木で、クリスはコインを弄んだ。 「賭けなら一度」 「今度は本気の賭けだ。表なら、お前にこのコインをやるし、奢ってやる。裏なら、俺とカップリングテストしてくれ」 「それ、寄付に当たらないの?」 「コインはたまたま砂浜に落ちていたものだから、電子マネーに交換できないし、規約に引っかかることはない。それに俺は、お前とカップリングテストしてみたい」 「……ずいぶんストレートに言うんだね」 「頼むよ」  アイスグレーの眸が、真剣な光を湛えていた。クリスが悪い人間でないことは奈斗にもわかったし、誰かといずれ、カップリングテストするのなら、相手はクリスがいいと思った。 「俺とカップリングテスト、そんなにしたい?」 「したいな」  即答されて、奈斗は一瞬、狡い聞き方をしたことを悔やんだ。 「……ごめん、今のなし。俺も、誰かと絶対、カップリングテストしなきゃならないなら、相手はクリスがいい。でも、ひとつ質問がある」 「?」 「カップリングテストした結果、何がわかるの?」 「パートナーかどうかがわかる」 「もしそうだったら? あるいは違ったら?」 「そうだったら、そいつと一緒にここから出て、クリスマスイヴを過ごせる。これからずっと。違ったら別れてもいいし、しばらく一緒にいて、合意が形成できたら、他の相手を探してもいい」 「サイレントとは、違ったの?」 「あいつとは五回ほど一緒に寝た。五回目に俺がブルネットに変えたら、こう言っちゃ何だが、好みじゃないし勃たないって言うんで、振られた」 「俺は……たとえテストの結果、クリスがパートナーじゃなくても、しばらく他のトナカイと、カップリングテストして欲しくなくなると思う。それに、来年もイヴデモがあるなら、クリスと逢いたい。重いけど、俺はそうしたい」 「裏が出たら、お前がいいと言うまで、付き合うことを誓う。これでいいか?」 「もうひとつ、条件がある。もし裏が出たら……」 「何だ?」 「嫌だって言ったら、途中でも、ちゃんとやめてくれる?」  すると、クリスは「何だ、そんなことか」と笑った。 「嫌なら蹴飛ばせばいい。俺は、そんなに柔じゃない」  そして、コインは裏だった。

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