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第16話 尋ね人

 気がつくと、会社のロッカーの前だった。 「……あれ?」  ぽつりと呟き、目を二、三度瞬くが、何か肝心なことを思い出せないでいる気がする。  時計を確認しようとスマートフォンを見ると、八時十分だった。特に何かあったわけではないが、一瞬、記憶が途切れていたようだ。  奈斗はコートの前を閉めて、家路についた。途中、コンビニで弁当を買って帰ろうと思う。クリスマスイヴだというだけあり、サンタのコスプレをした男女がケーキを売っているのが、寒くて大変そうだ。  奈斗もコンビニでケーキの代わりに、アイスをひとつ、買って帰る。  誰もいない家。 「ただいま」  声を掛けても、誰からも返事は返ってこない。  だが、その日、風呂を沸かしながら飯を食い終わった頃、ドアベルが鳴った。 「?」  もう十時半過ぎである。こんな時間に何の用だ? と訝しく思い、居留守を決め込むと、しつこく何度も鳴らされて困った。今頃出ていったら何を言われるかわからないし、やり過ごそうと考えていると、今度はスマートフォンが振動した。  見ると、トナカイのツノのアイコンが、ピコンと音を立て、メッセージを受信した。 『開けてくれ、クリスだ』 (──は?)  刹那、記憶が溢れてフラッシュバックを起こした。  奈斗は慌ててその辺にあるものを片付け、玄関へ向かった。途中、延長コードに躓いて転びそうになる。走るのはまずいので、急いでドアを開けると、そこには栗色の髪をハーフアップにした、アイスグレーの瞳の、サンタの帽子を被ったクリスがいた。 「奈斗」  万感の想いがこもった声で、クリスに呼ばれる。 「な、なん、で……」  疑問は溢れるほどあった。結局、イヴデモとは何だったのか。サンタクロースとは何者なのか。トナカイとはどういう存在なのか。そもそも、どうしてクリスは、奈斗がここに住んでいることを突き止められたのか。 「積もる話はあるが、とりあえず中に入れてもらえるか?」 「あ、うん」 「それと、わたくしこういう者です」 「えっ、あ。ごめん、名刺切らしてて……」 「構わない。一応、身元明かしとかないとな」  もらった名刺には、『株式会社SNT 代表取締役 栗原瑞希(くりはらみずき)』とあった。 「その、目、本物のグレーなんだね」 「ああ。珍しいだろ。もっと見ていいぞ」  その言い方に、奈斗は思わず微笑んだ。まさにクリスらしいと思ったためだ。 「それより、ここにきた経緯を聞かせてほしいんだけど」

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