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第18話 メリークリスマスイヴ

「俺と、付き合ってくれ、奈斗」  栗原はそう言うと、沈黙したまま頭を下げた。ハーフアップにした栗色の髪が、サンタの帽子の下で、クシャクシャに乱れている。その髪の間から、白い首筋がチラリと見えたのに気づいた奈斗は、たちまち頷きたいという衝動に駆られた。 「俺で、いいの? イヴデモ内でも言ったけど、俺……」 「経験がないことを気にしてるなら、俺にとってはご褒美だ。断る理由を探してるなら、一言、「嫌だ」と言ってくれればいい。もしも相手が他にいるなら──」 「い、いない。いないよ。誰もいないんだ。わかってるだろ、意地悪だな」 「……これは置いてくが、断られたら、俺は素直に帰る。だが、俺たちはきっと、また巡り逢うことになる。俺はしつこい性質だからな。それは覚悟しておいてくれ」  赤面した奈斗に、栗原はシャンパンを差し出した。 「個人情報保護の観点からは、褒められた行為じゃないけど、二度としないって誓ってくれるなら。それと、俺でいいなら、俺は、いいよ。クリス……じゃなくて、栗原さん」  運命だなんて言われても、正直、奈斗はピンとこない。  でも、栗原が真摯なのはわかったし、彼に応えられるなら応えたいと思った。  それに、こんな驚きに満ちたプレゼントをくれるサンタを、どうして拒めようか。 「瑞希でいい。奈斗。逢いたかった。本当に逢えてよかった」 「うん」  俺も、と続けると、アイスグレーの眸がキラリと光った。 「イヴデモにくる前、サンタがいるなら課金するから、毎年きてくれないかなって、思ったんだ。願い、かなっちゃったよ」 「もしかすると、それが無一文だった理由かもな」 「そうなの?」 「イヴデモは現世での夢を聞き届ける。そいつが無意識のうちに願ったことを」 「じゃ、俺、無意識のうちに瑞希さんに課金したってこと?」 「かもな。俺の口座に金があった理由も、それで説明がつく」  そんな凄い力があるなんて、思いもしなかったが、全財産課金するとか、どれだけ逢いたかったんだろう。考えてみると必死すぎて、恥ずかしくて頬が火照った。 「奈斗」 「?」 「今日は、あの続きをしにきたんだ」  言って、頤をそっと上げられる。 「瑞希さん……、ぁ」  唇が重なる瞬間に、言われる。 「──お前に逢えてよかった。メリークリスマスイヴ」 =終=

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