18 / 31
第18話 メリークリスマスイヴ
「俺と、付き合ってくれ、奈斗」
栗原はそう言うと、沈黙したまま頭を下げた。ハーフアップにした栗色の髪が、サンタの帽子の下で、クシャクシャに乱れている。その髪の間から、白い首筋がチラリと見えたのに気づいた奈斗は、たちまち頷きたいという衝動に駆られた。
「俺で、いいの? イヴデモ内でも言ったけど、俺……」
「経験がないことを気にしてるなら、俺にとってはご褒美だ。断る理由を探してるなら、一言、「嫌だ」と言ってくれればいい。もしも相手が他にいるなら──」
「い、いない。いないよ。誰もいないんだ。わかってるだろ、意地悪だな」
「……これは置いてくが、断られたら、俺は素直に帰る。だが、俺たちはきっと、また巡り逢うことになる。俺はしつこい性質だからな。それは覚悟しておいてくれ」
赤面した奈斗に、栗原はシャンパンを差し出した。
「個人情報保護の観点からは、褒められた行為じゃないけど、二度としないって誓ってくれるなら。それと、俺でいいなら、俺は、いいよ。クリス……じゃなくて、栗原さん」
運命だなんて言われても、正直、奈斗はピンとこない。
でも、栗原が真摯なのはわかったし、彼に応えられるなら応えたいと思った。
それに、こんな驚きに満ちたプレゼントをくれるサンタを、どうして拒めようか。
「瑞希でいい。奈斗。逢いたかった。本当に逢えてよかった」
「うん」
俺も、と続けると、アイスグレーの眸がキラリと光った。
「イヴデモにくる前、サンタがいるなら課金するから、毎年きてくれないかなって、思ったんだ。願い、かなっちゃったよ」
「もしかすると、それが無一文だった理由かもな」
「そうなの?」
「イヴデモは現世での夢を聞き届ける。そいつが無意識のうちに願ったことを」
「じゃ、俺、無意識のうちに瑞希さんに課金したってこと?」
「かもな。俺の口座に金があった理由も、それで説明がつく」
そんな凄い力があるなんて、思いもしなかったが、全財産課金するとか、どれだけ逢いたかったんだろう。考えてみると必死すぎて、恥ずかしくて頬が火照った。
「奈斗」
「?」
「今日は、あの続きをしにきたんだ」
言って、頤をそっと上げられる。
「瑞希さん……、ぁ」
唇が重なる瞬間に、言われる。
「──お前に逢えてよかった。メリークリスマスイヴ」
=終=
ともだちにシェアしよう!