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第20話 2021*元彼のブルネット

 去年のイヴデモで、静は全く静かに失恋していた。  長年、遊んでいたプラチナブロンドの相手が、ブルネットになってしまったからだ。おまけにイヴデモアプリを裏口からハックして、カップリングテストの相手の個人情報を不正にゲットした疑いが生まれた。カップリングテスト相手は大人しそうな、髪色ひとつ弄っていない白紙状態のトナカイだった。距離の取り方がスマートなブロンドの彼を気に入っていた静ことサイレントは、派手に遊んでいる貞操観念の欠けたトナカイより、大人しげで真面目な印象のトナカイの方がウケが良かったのかと現実を突きつけられ、少し傷ついた。  しかし、元彼──割り切り関係をそう呼んでもかまわないなら──は裏口を使たことがバレて、イヴデモ本部のブラックリストに載ってしまった。そうまでして結ばれたかったのか、とそれを知ったサイレントは、また少し静かに傷ついた。  元彼の相手をなまじ見知っていただけに、何んとなくわかってしまったからだ。きっと恋をしたら、相手を真摯に思うのだろうと。そんな相手だったから、元彼は裏口を使ったのだ。  去年のクリスマスイヴデモは、率直に言って散々だった。  裏口からのハッキングが露見するなりアラームが島全体に鳴り響き、トナカイたちは食事中の奴もセックス中の奴も、残らずそこから動くことを禁じられ、一人ずつ取り調べと呼べばいいが、多く辱めを受けた。受付係のいつも気持ちのいい挨拶をするルドルフは不機嫌で無愛想になるし、ハッキングした元彼とツルんでいた情報が寄せられたサイレントは、本部の諮問委員会に呼ばれて、あれこれ聞かれ、あることないこと白状させられる始末だった。  おかげでサイレントという名の赤髪のトナカイは、ハッキング犯と繋がりがあるとの噂が島中を席巻し、誰も恐れをなして、好んで相手にしなくなってしまった。髪色を変えることも、ハンドルネームを変えることも考えたが、自分が噂に負けたみたいで癪に障る。無実を主張するには、以前のままでいるのが一番だとサイレントは考えた。現に無実なのだから、いつかはわかってもらえるはずだ。  浜辺でひとり黄昏ていると、波が足元の砂をさらってゆく。少しずつ沈んでゆく身体を持て余し、このまま浜辺に埋まって死にたい、と思わなくもないほどの打撃だったのだと、その時になってサイレントは気づいた。  寂しさに押しつぶされそうになった時、不意に降り注ぐ太陽が遮られ、影がかかった。

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