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第21話 2021*尾ひれの夢

「失礼」  振り返ると、見事なプラチナブロンドの中年の男が日傘を差し掛けていた。 「少し話をしても?」  サイレントが言葉を無くしていると、男は静かにサイレントの隣りに腰を下ろした。 「つかぬことを尋ねるけれど、サイレントというトナカイを探しているんだが」 「……何が目的で?」  思わず猜疑の声が出た。男は四十過ぎぐらいの柔和な顔立ちで、少し痩せぎすで、赤と白のアロハシャツが全く不似合いだった。くせ毛の金髪が顔を覆っているが、靡かせるほどは長くない。面影がどことなく誰かに似ている気がしたが、誰に似ているのか思い出すことができなかった。 「私はカッツといいます」 「はあ」 「噂のサイレントという人物と話をしてみたくてね。何でも世紀のトナカイ泥棒でサンタクロースの可能性すらあるクリスと結託していたと聞いたもので」 「それ、尾ひれしかないけど」 「そうなの?」 「知り合いだったのは事実だけど、結託なんてしてなかった。結託してたら今ごろウハウハで攫ったトナカイと3Pでもしてるんじゃね? ところが、おれはそいつらとすれ違って振られただけ。残念でした。夢を壊して悪いけど、ひとりにしといてくれないか」  嘲る口調で早口に言うと、カッツが「そうか」と俯いた。わかりやすい落ち込み方をする。思わずかまってやりたくなって、これは人たらしの才能があるんだろうか、と考えた。よく見ると、左手の中指にプラチナリングが嵌まっている。左手の中指にリングが嵌まっているのは、同性愛者の印だった。プラチナなら上、ゴールドなら下。サイレントは少し特殊で、ゴールドの腕輪とプラチナのリングをしていた。相手を煙に巻く意味もあったが、有り体な貞操観念の持ち主と、つまらないセックスをして慰め合うのが嫌だったせいだ。どうせなら、どんな奴かわからない自分の存在を、それでも一線を踏み越えてきてくれる人と、付き合いたかった。 「でも私の予測は半分当たったよ。良かった」 「え?」 「きみがサイレントだってことと、きみが両性愛者だということ。トップにもなれるボトムさんと、実は一回、手合わせしてみたいと思っていてね」  静かにサイレントを振り返る目はアイスグレーで、少しだけ元彼を彷彿とさせるところが嫌だった。 「ふうん」  サイレントは口の端を上げ、皮肉げな笑みを浮かべて、獲物となったカッツを凝視した。

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