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第22話 2021*南端の部屋

「じゃ、しましょうか?」  サイレントは強気で立ち上がった。足元の砂がまたいくらか波にさらわれる。覚束なくなった足場から一歩を踏み出した。燃えるような闘志に近い感情が湧いてくることにサイレント自身が驚いていた。  いわばお尋ね者の仲間扱いされている自分とカップリングテストをしたいと言っているに近いカッツの向こう見ずな誘いに、乗った形になる。全部壊してゼロからやり直すにしても、爪痕を付けないと気が済まないほど気持ちが荒んでいた。  サイレントは立ち上がると、カッツが追いかけてくるのをそのままに、コテージに戻った。 「部屋は?」 「あるよ。二階の南端が空いていたので」 「……まさか即金で買ってないよな?」 「いえ。でも三分割のローンで、なぜか安かったですよ。死にトナカイでも出たのかな?」 (嘘だろおい……)  カッツはのほほんと言うばかりで、サイレントはその部屋がハッキングをやらかした奴の持ち物だったから売りに出されたのだという事実を言うべきか言うまいか、躊躇した。だが、どうせあとになってわかることだろうと思ったサイレントは、呆れた声で、後ろをついてくる男に向かって言った。 「あんたほんとにめでたい頭してんな。ルドルフにちゃんと聞くべきだったよ」 「何かあったの?」 「おれと親しくしてたハッカーの持ち物だったんだ。奴が即金で買ったんだよ」 「なるほど……」  一拍置いて、それほど驚いた様子でもなしに納得したカッツの様子に、「死にトナカイ」という言葉すら出すほどだ、特に問題にしないぐらいの覚悟はしていたのかもしれない、と思い直した。 「やめるか? 嫌になったなら、別にいいけど?」  念のために尋ねると、弾んだ声が返ってきた。 「いいえ。ますます面白い。私は普段あまり羽目を外さない性質なので、こちらでは少しはっちゃけようと心がけているので。それがかなってむしろ嬉しいぐらいだ」  変な奴だなと思ったが、不運続きの厄落としに、一発やって、さっさと帰ろう、と思った。

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