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第一章 小屋に住む少年と狼 (二)
それからの日々は大きく変わった。
まず、少年と狼は夜共に寝るようになった。狼は少年の起きる時間を記憶し、頃合になると頬を舐めたり腹に乗っかったりして少年を起こす。
それから少年の身支度が始まり、狼は家の外に出る。夜が更けて少年の家から男が去ってから狼は帰ってくる。
大きく変わったのはこの後で、狼が帰ってくると少年と狼は一緒に湯を浴びるようになった。
これまでであれば行為の後そのまま布団に身を投げ出していたが、鼻のいい狼が人間の濃い欲の匂いの中では可哀想だと少年が判断したためである。
狼は泥を落とし、少年は自分以外のにおいを落とす。
狼は度々少年の首やら胸に散った花弁を傷だと勘違いしているのか舐める仕草をするが、少年はそれがたまらなく恥ずかしく、また愛おしかった。
湯を浴びたあとは狼の足の傷の手当をしてからふたりで仲良く寄り添い眠りについた。
同じ石鹸を使っているのに狼の体から不思議と甘い匂いがしている気がして心地良い。
少年は何度も男に抱かれるも、愛おしいなどという感情は持ったことがなく、この狼が初めてであった。
数日後、狼の足の傷は良くなり、包帯の必要が無くなった。
一ヶ月もすれば傷跡も綺麗に無くなるだろう。そうなればもうこの狼がこの家に留まる必要は無い。
家の前を元気に駆け回れるようになり、少年は安心したが、急に胸に針を刺したような痛みを感じて首を傾げた。
いつものように身支度をし、同じように男に抱かれる。だが今日に限って上の空で、何故かずっとあの狼のことが頭にチラついていた。
すると自分勝手に打ち付けていた腰がピタッと止まった。
「……ねえ夜くん、今日集中できてないね」
「そんなこと……」
スパンッと軽い音と共に頬に衝撃が加わり、ジンジンと熱を持ち始めた。
「夜くんは誰のものにもならないからいいんだよ。君はこうして足を開くことでしか生きられない淫乱なんだから」
「え、……あああっ!」
すると止まっていた腰を突然奥まで打ち付けられ、一気に襲う痛みと快楽に大きな声をあげてしまった。
そのままの勢いのまま突き上げる速度は上がり、内臓ごと大きく揺さぶられて、揺さぶられるまま喘ぎ、閉じなくなった口からは涎が垂れた。
「あぁ、良いよ夜くん。そうそう、ただ僕を感じればいい。今君は僕に抱かれてるんだ。もっともっと刻み込んであげる」
「あッ……あぁ!あぁんっ!んんぅッ……!」
少年は何度も達し、少年の腹の上は少年自身が放出した濁液でいっぱいになっている。
男はゴツゴツした大きな手で少年の腹を撫で、白い肌に白濁を塗りたくる。
いつの間にか抽挿は止まっており、心做しか腹の中が熱かった。
「綺麗だよ夜くん……。沢山出せたね」
腹を撫でたその手をべろべろと舐め取り、口付けをしてきた。
少年は口の中に広がる苦味と臭いに顔を顰めたが、男は気づいていない様で、ちゅぱちゅぱと水音を立てて舌を絡める。
離れた男の唇から少年の唇へ橋がかかり、プツンと切れた。
「美味しかったよ、また来週来るね。……君はここでしか生きられないんだから、なんて、そんなこと分かってるよね。それじゃあまたね。夜くん」
男は鋭い目つきで、笑みを浮かべながら少年に釘を刺し、家を出ていった。
それは少年の新たな日常を否定するものだと少年は理解しているし、元の生活に戻す他ないことも、しっかり理解していた。
生きる術を失った少年は、毎日違う男に抱かれながらその男たちに生かされているのだ。
男たちは少年を抱く代わり、生活に必要なものを運んでくる。
それは以前迫害を受けて村に行くことができない少年にとっての命綱であり、それが途絶えれば身寄りのない少年は本当に死を待つことしか出来なくなってしまう。
いつもより激しい交接により身を起こすことが出来ずにいると、ゆっくりと黒い影が近づいてきた。
少年がじっと見つめていると、その影は目の前で止まり、少年の頬に温かく柔らかい感触をもたらした。
外が白んできて光が差し込むと、黒い影は銀色に輝き始めた。
「ああ、お前か……ごめんね。今日は動けないや」
意識はこの狼を撫でている。しかし実際の腕は畳にピッタリ密着したままだった。
殴られて赤く腫れてしまった頬を、狼はしきりに舐め続けている。
それが擽ったくて少年はくつくつと笑った。
「お前の目、綺麗だな。昼間の……綺麗な青空の色だ。僕が持ってないもの……もっと……見ていたいな……」
少年はそのまま意識を手放した。
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