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第二章 獣人の国と少年 (七)
早朝から獣人が集まっていることを知る由もない夜宵がいつものように閉店時間間際に行くと、店の周りには朝と変わらず人集り。
どうしたものかと遠巻きに眺めていると、夜宵に気付いた獣人が声を上げた。
「ヤヨイさんがいらしたぞ!」
「ヤヨイさん!シャンプーしてくれ!」
見つかるや否や、集まっていた獣人達に一瞬で取り囲まれる。
「え……何、何?」
囲まれたところで、正面にいた獣人に手を掴まれる。
周りからは何やら色々言われているが、どれも重なって聞き取ることは不可能だ。
――怖いっ!
レンにいた頃の、狂気に満ちた村人たちに囲まれてた過去がフラッシュバックし、獣人たちの声は不協和音となり夜宵の脳を揺らす。
頭の先からつま先まで血の気が引いていく感覚がするが、心配してか余計に獣人たちは集まってきて恐怖は高まるばかり。
騒ぎに気づき人集りをかき分けてジャレッドが夜宵の姿を目視した時には体はガタガタと震えていた。
その場はジャレッドが抑え、夜宵は店の中へ運ばれた。
「ごめ、なさ……ごめんっ、なさ――」
「大丈夫だから。まあヤヨイくんとアイツらじゃ体格差あるし、そりゃ囲まれりゃ怖いさ。驚いたよな」
ジャレッドは優しく背中をトントンと叩いて夜宵を宥めてくれる。
「もう、大丈夫。ありがとう……」
夜宵が弱々しい声でジャレッドに伝えると、ピッタリとくっ付いていた体を浮かせて夜宵の顔を覗き込む。
顔色が良くなったことを確認して店の外にいる獣人たちに声をかける。
夜宵の起床時間の都合も含めて考慮した結果ジャレッドの提案により夜宵のシャンプーは閉店後一時間のみ、抽選かつ予約制となった。
こうして抽選で順番が決められていき、夜宵は毎日獣人たちのシャンプーをするためにジャレッドの店に通った。
夜宵のシャンプーは評判がかなり良く、通常のシャンプー代のみの請求であったにも関わらずみんなチップとして多めに置いていった。
その日の三番目の客はオオヤマネコの獣人だった。
いつものように洗っていた夜宵だが、その時の客はどうも様子がおかしくて、短い体毛の中で触れる体から指先にじわじわと熱が伝わってくる。
シャワーで泡を流し終え、もう一度触るとやはり熱い。
呼吸も徐々に早くなり、今ではそこそこ辛そうな様子でシャワーで肌の表面温度が高くなった訳ではなさそうだ。
「あの、もしかして具合悪い?熱あるでしょ。大丈夫?」
夜宵が顔を覗き込んだ時だった。
気付いた時には景色が反転し床に仰向けになっており、濡れた浴室だったため背中は既にびしょびしょだ。
「ごめん、滑っちゃった。今退 く……えっと?」
夜宵が起き上がろうとするとオオヤマネコは行先へ脚を置いた。今は仰向けの夜宵の上に跨るようにしてオオヤマネコが夜宵を見下ろしている。
瞬間、オオヤマネコの牙が夜宵の頬を掠めた。
すんでのところで躱 したが、傷がついた頬からは血液が流れる。
オオヤマネコの瞳がゆらりと熱を帯びている。熱の篭った視線は荒々しい吐息と共に夜宵に集中する。
視線が首元に移ったのを感じ取り、慌てて腕を差し出すと、思った通り首に目掛けて噛み付いてきた。
腕に激痛が走り、うめき声が出る。
逃げなければ、と咄嗟に夜宵が勢いよくオオヤマネコの腹に蹴りを入れ、身を翻す。
何とか逃げ出そうとオオヤマネコが怯んだ隙にと狙う。が、結果は惨敗。
逃げようと身を翻した結果四つん這いの状態で上から覆い被されてしまった。
「あ、これまずいかも……。ジャレッド来て!」
夜宵が助けを求めると、なに?と返事が遠くから聞こえたとほぼ同時、熱を帯びた硬いものが太ももに当たる。
「んんっ……!」
後ろ足で太ももを閉じられ、夜宵の太腿の間に勢いよくオオヤマネコのペニスが滑り込んだ。
鈴口からはダラダラと液が流れ、それを吸い込んだ夜宵のズボンが太ももに密着し、滑りを良くしていく。
濡れていく感覚に夜宵の性器も次第に形をなしていく。
「これ、やば――」
パン、パン、とオオヤマネコの鼠径部と夜宵の双丘に打ち付ける音が響き渡る。
事情を知らずにひょっこりと顔をのぞかせたジャレッドが、現状を目にして大声で慌てて部屋を出た。
「は!?発情期!?待ってろ!」
ガタガタと何かを漁る音がして夜宵がそちらに耳を傾けていると、不意にガブッと肩口に痛みが走った。
フーフーと荒い呼吸が夜宵の耳をくすぐり、誘発されるように体が内側から熱を発し始める。
「あ――うそ、なにこれ……!あんっ!」
なんとか流されないように耐えていた夜宵だったが、それを皮切りに腹の中がうずき始めるのを感じた。
「あッ、あぁ……中に……欲し――」
熱に浮かされたまま夜宵はズボンの腰の留め金に手を伸ばす。
「ヤヨイくん!気をしっかり持つんだ!」
伸ばした手をぎゅっと掴まれ抵抗するもその手が離れることはなく、しきりに打ち付けていたオオヤマネコの腰も緩やかになり、狂気的なほどの怒張も力を無くしていった。
ジャレッドが発情抑制剤を打ったことによりオオヤマネコの意識はおぼろになりその場で体を横たわらせた。
「え、なんで、なんで……!」
「落ち着け!しっかりしろ!……くそ、ヒト族は発情しないんじゃないのか?いくら獣人の発情に当てられたからってこんな――」
夜宵は肩を上下させて身を震わせて呼吸している状態で、暴れる夜宵を抱きかかえるようにして抑制する。
抱きかかえているジャレッドも夜宵から発せられる匂いに当てられ始め、体が震えた。
「まずい、俺もこれは――!」
夜宵を抑えていない方の腕に噛みつき、かろうじて理性を保つ。
しかしそれも長く持たないことはジャレッド自身よくわかっている。
「ごめんな」
と一言謝り手刀で夜宵の項を打ち意識を飛ばした。
ジャレッドは壁伝いに先程漁った店に戻り、自身の大腿に抑制剤の入った注射器を突き立てた。
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