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第二章 獣人の国と少年 (八)
侍従の一人が報告のため扉越しに姿を現したのは仕事を切り上げて入浴している時だった。
基本的に入浴時はシルヴァンにとってのプライベート時間であり、執事のトーマス以外余程の急用でなければ入ってくることは無い。
つまりそれほどまでに今回は急ぎの用事であることが伺える。
と、通したまでは穏やかだった。
内容を聞いた途端シルヴァンの顔色は変わり慌てて湯から上がって、部屋着用のシャツを羽織って応接室へ向かう。
シルヴァンが応接室に入るとジャレッドがソファに腰掛けており、膝枕で夜宵が眠っていた。
挨拶を、と腰を浮かせたジャレッドにそのままで良いと声をかけてシルヴァンは駆け寄り夜宵を自身の腕に抱くが、その体に力はまるで入っていない。
シルヴァンが呼びかけてもびくともしない。
するときまりが悪そうにジャレッドが小さく声を発した。
「すみません。私が気絶させました。その、今日の業務の中でトラブルがございまして――」
ジャレッドが店であったことを話す間シルヴァンはジャレッドの正面に腰かけて夜宵を腕に抱いたまま黙って話に耳を傾けていた。
ジャレッドは説明の最後に
「ヒト族に発情期は無く、また獣人の発情期に当てられるなど聞いたことがありません。ヤヨイくんはレンの生まれですよね?……ヤヨイくんは何者なのでしょうか」
と付け加えた。
しかしそれに関してはシルヴァンも分かり兼ねることではあった。
獣人はその見た目こそ二足歩行でヒト族に近い者もあれど、生態自体根本は四足歩行の動物と限りなく近い。
違うことといえば、動物であった時代には複数の子供を産んでいた種でも、獣人に進化した過程で一度の妊娠で孕むのは多くが一人、稀に双子が産まれるくらいになってしまったことくらいだ。
種や個体差によって誤差はあるが年に何度かの発情期を迎え、番となる相手を探す。
番となるためには両者が発情している時に性交をし、雄が雌に子種を注ぐことが条件になることから発情期の近い同種間での交配が最も多い。
他種間であっても子を作りやすい、体の相性の良い相手が匂いでわかることがあり番関係となることも少なくない。
他種間での交配が行われた場合の子供は、両者の容姿を混ぜた容姿になる者も居ればどちらかに似通った者もいる。両親を飛び越えて隔世遺伝することもあり、それらは似通った容姿の種の能力を強く引き継ぐことになる。
番関係を成立させるとき雄が雌の首元など見えるところに噛み跡を残して所有をアピールするのが一般的であり、雌としても多くが噛み跡を付けられることを望んでいる。
番関係が成立するとその歯型は生涯残ることになる。
とはいえそれではただでさえ数の少ない獣人族は子孫を繁栄させるのに何十年何百年と時間がかかってしまう。
そのために番は必ずしも一対一に限らず複数間での番関係も認められることとなり、更には同性間での交配も可能にすべく知性と洞察力に長けた梟族を筆頭に薬が開発されたのだ。
それにより獣人族は現在ではかなり個体数を増やすことが出来ている。
だがやはりヒト族の繁殖力にはまだまだ劣る。
ヒト族は獣人族と違って発情期が無いため、年中何時でも子供を作ることが出来るという。
それも獣人と違い番関係など無いというから不思議である。
だからこそ、夜宵の反応は説明がつかないのである。
ヒト族であるはずの夜宵が獣人の発情に当てられて発情、それも子種を中に欲しがったという。
獣人の雌ならまだしもヒト族の雄が、である。
シルヴァンが夜宵をこの国に連れてきて初めて食事をとったとき、懐かしいと言っていた。
何か縁があるのでは、と夜宵も口にしていたがそれはあながち間違いではないのかもしれない。
一先ず夜宵がヒト族であっても何かの獣人の血が混ざっていようと、シルヴァンが守ると誓った相手であることには変わりない。
一通り話をし終わるとジャレッドは屋敷を去った。
シルヴァンは夜宵を部屋に運び、シャツのボタンを外していく。
そのままでは起きた時に気分が悪いだろうと気を利かせたトーマスがタイミング良くお湯とタオルを持ってきたため体を拭いてやり、寝やすいように楽な服を着せてやる。
部屋の明かりを落として布団に寝かせた夜宵の髪を撫でながら眠気を待っていると、すうっと瞼が開いてその黒目がぼんやり天井を写す。
「ん?夜宵、起きたか?」
寝起きだからと気を使って静かに声をかけてみる。
声こそ発することは無かったが、潤ませた目を声の主に向ける。
その時シルヴァンは初めて夜宵の目の色を知った。
黒いだけだと思っていた夜宵の目は、黒の周りが赤く縁取られている。
暗い部屋の中でもしっかりとその黒目の存在を主張しているその瞳は夜鳥のようだった。
そう言えば夜宵は昼間より夜間の方が起きている。
「あれ……みそらだ……みそらぁ」
ふわふわとまだ熱の残っているとも取れる夜宵はふにゃっと顔をほころばせてシルヴァンの腰に巻き付き胸に額を擦り付けた。
驚いて髪を撫でる手を止めたときだった。
夜宵からふわりと甘い香りが放たれていることに気付き、全身の毛穴が開く感覚に陥った。
「みそらぁ、良い匂いするねぇ。甘い……初めて会った時からいい匂いだなぁって僕思ってたんだぁ」
確かに夜宵と初めて出会った時も、あの小屋で一緒に寝た時に夜宵からの甘い匂いを感じ取っていた。
今ならあの時夜宵に助けられた後小屋について行った理由に納得がいくし、明確な理由がある。
「夜宵は……俺の……」
番――
その言葉を飲み込んで夜宵を抱きしめ、その甘い匂いをいっぱいに吸い込んだ。
「みそら、勃ってるね」
小柄な夜宵はシルヴァンの腕をするりと抜けると、シルヴァンの下半身にある芯を持ったそれに手をかけた。
「おいっ!夜宵!何を……!」
「みそらの、僕にちょうだい」
下着ごとズボンをずらして頭を出したそれに吸い付くように口付けをする。
根元を手で包み込むようにして舌先で擽るように先端を舐めると、口が開き先走りが溢れた。
唇を付けてじゅっ、と音を立てて吸い上げるとその屹立はその刺激にすら反応して更に涎を垂らす。
「んっ。おいし」
根本付近を包み込んでいた夜宵の手を一度離すと舌を先端から裏筋を通って根元まで滑らせる。
つーっと舌先で来た道を戻り雁首に引っ掛けながらぐるっと周りを舐めとると、舌を這わせたまま大きく口を開いて先端を咥えた。
再び手のひらで包み込むように根元付近を握ると舌を平たくして、広範囲に接触させたまま徐々に奥へ咥えこんでいく。
夜宵の口内の熱さと唾液の滑り、舌のザラザラとした刺激の気持ちよさが腰から脳天まで電流のように走りシルヴァンは思わず唇を噛んだ。
尖頂が夜宵の上顎を擦り、夜宵も咥えながらに甘い吐息を漏らす。
頬を赤らめて咥えこみながら圧迫感で涙を浮かべる夜宵の顔を見たその瞬間、シルヴァンの中で何かがプツンと切れた音がした。
必死に咥え込む頭をシルヴァンが制止し、体を起こすとベッドの横に移動した。
自分の前に膝立ちになるように指示し、再び咥えさせるとその頭を掴み、ゆっくり腰を揺らし始める。
押される度に「グッ」と喉が鳴り、動く度にじゅる、じゅる、と夜宵の唾液とシルヴァンの先走りが混じった液が泡立ち夜宵の口から流れ出る。
次第に腰の波はスピードを増していく。
夜宵は頭を掴まれたことで引けなくなり苦しさに見悶えるがその手はしっかりシルヴァンのものを握ったままで、シルヴァンの腰の動きの反動で意図せず擦りあげている状態になっていた。
「んぐっ、んっ!んゔぅッ……ぎ、もひ、い……」
限界も近くなり、シルヴァンはせめて口外に出そうと腰を引いた……はずだった。
離れないよう手を回していた夜宵によって阻止され、そのまま熱い液は口の中へ放出された。
「ん゙ん゙ぅっ――」
喉の奥まで注がれ匂いの強さに眉間にシワが寄る。
「はぁ、はァ……夜宵……っ!悪かった。今すぐ吐き出せ!」
夜宵の正面に膝をつき頬を両手で挟むと、夜宵は口に残った白濁を舌に乗せて口を開けて見せ、シルヴァンが目を見開いたのを確認すると嬉しそうに飲み込んだ。
「ん、美味しかった」
下に目をやると、どうやらシルヴァンのものを咥えていただけで直接刺激がなかったにも関わらず夜宵も吐精していたようで染みを作っている。
シルヴァンは無言で夜宵を抱き上げてベッドに寝かすと、ズボンと下着を下ろして自身の放った液でぐしょぐしょに濡れたそこに舌を這わせた。
「ひゃっ!ちょっとみそら、何して……!」
出された液は見た目は他の獣人やヒト、それこそシルヴァンのものと同じだが匂いや味はこの上なく甘く、どんな食べ物よりも好みであった。
シルヴァンのものより小さなそこは既に力を失っていたはずだが、全て舐め終わる頃にはしっかりと力を取り戻していた。
夜宵の頬は熟れたリンゴのように赤く艶めいていて、可愛らしく強請るように鈴口から精液でない透明な涎を垂らしている。
それが竿を伝い降り、傷もすっかり治った蕾を濡らしてヒクつかせる。
危うくこのまま後ろを解して入れてしまえば、と熱に溺れそうになるが、今の夜宵は発情によって理性を飛ばされている状態だ。
ここで無理をさせれば発情から抜けた後、苦労するのは夜宵である。
シルヴァンは自身の欲求を押し殺すと、反り勃った夜宵の肉棒に手をかけ、敏感な先端を中心に摩擦刺激を与えていく。
「夜宵……発情が終わったら言いたいことがある……ちゃんと、聞いてくれよ?」
あっという間に夜宵は絶頂を迎え、全身を震わせ腰を浮かせて射精した。
それからも夜宵の精液が出なくなるまで扱き続け、時には自身のも慰めつつお互いが落ち着く頃には既に日が登り始めており、二人仲良くベッドで気絶するように眠りに落ちた。
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