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第二章 獣人の国と少年 (十)
夜宵の服装について一部描写が抜けていたため追加致しました。
2021.2.1
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馬車で揺られること丸二日、太陽の明るさにウトウトしながら見えてきた街並みは先日まで滞在していた港街より遥かに栄えており、全てが夜宵の目には輝いて映る。
輝いて見えるとうのはけして比喩ではなく、建物は高さがありやや黄色がかった白で統一されているためか太陽光がよく反射して明るさが目に刺さる。
街に住む住人達も活発な獣人が多いようで、多くの声が飛び交いとても賑やかだ。
その中でも一際夜宵の目を引いたのは街の奥、少し高い位置に作られている大きな建物――まさに異国の城だった。
「わあ、すごい……」
シルヴァンは街を見渡す夜宵を見て穏やかに微笑むも、あまり晴れた心持ちではなかった。
シルヴァンにとって王宮は居心地の良い場所ではなく、それ故に飛び出した過去がある。
しかし今回は夜宵を連れており、王族である以上勝手な婚姻や番関係を持つことは許されないため仕方なくこの地に戻ってきたのだ。
そんなシルヴァンに気付かずに
「みそらはここで育ったんだね」
なんて顔を綻ばせるもんだから、どうにも夜宵が可愛くて色々気にするのもどうでもよく感じられた。
眠い目を擦りながらもしっかりと街の様子を目に焼き付けようと必死になっている少年を、シルヴァンは久々の故郷よりも眺めていた。
王宮に着いてからは流石に夜宵が眠気で限界に近い状態だったため先に今回の遠征の報告と夜宵を紹介する旨を伝えるため、シルヴァンのみ先に国王への謁見をして、夜宵は一度休ませてから謁見することになった。
城のメイドに案内させ夜宵は一時的に客室のベッドを借りて睡眠を取ることになり、その間部屋の外にはシルヴァン直属の護衛騎士を二人つけ、部屋の中でトーマスが付き添うことになった。
本来であれば到着してすぐに身分の高い者へ挨拶をしに行くのが礼儀であるが、シルヴァンの客人であることと遠征での報告があるため許しが出されたのだ。
夜宵がベッドに入って数時間、日が暮れてきた頃トーマスによって起こされて正装に着替えさせられた。
夜宵は正装というものを持ち合わせていなかったが、眠っている間にトーマスが用意させていた。
サイズが合い、なおかつ動きやすいよう軽いものであるがきちんとした服装でありこの手回しの良さは流石としか言えない。
夜宵が着せられたのは首元と手首の詰まったシャツで、その首元と手首には銀色のリングがはめられる。
首輪と手枷のように感じて奴隷にでもされたような気分になったがその銀がシルヴァンの髪と同じだったためシルヴァンの所有であることの主張のようで、勝手な解釈だったとしても幾分高揚感が得られた。
下半身はスカートとパンツがセットになったようなボトムスで、スカート部分は前から後ろにかけて長くなっていく仕様だ。
前面は股関節と膝の間ほどの丈で、背面はふくらはぎにかかるのではないかといった長さで動きに合わせてひらひら動くのが新鮮だった。
腰にはシャツとボトムスの境を覆うように太いベルトが巻かれる。
スタイルをよく見せるためだ、とキツく巻かれ、背中についている紐を絞られる。
ベルトというより女性がドレスの下に身につけるコルセットに近かった。
だが素肌に触れる布がどれも柔らかくて肌触りが良く、それでいて生地も薄くないため夜宵の腕の傷も気にする必要がなくすっかり気に入ってしまった。
謁見までに時間が少しあるというので謁見の間の前から庭へ出て植えられていたバラの花を眺めていると、その木の向こうでこちらを眺めている金色のたてがみを持った体格のしっかりした青年が立っているのが見えた。
不思議に思っていると後ろからトーマスが耳打ちされ、夜宵は慌てて膝を折って頭を下げた。
するとその男は夜宵に近づき声をかけてきた。
「私を知らないとは、そなたこの国の者ではないのか?トーマスを連れているということは、そなたはシルの連れだと思ったのだが私の勘違いか?」
口調は柔らかく、それでいて短いその言葉に乗せられる重圧感はまさに王族の持つ生まれつきの風格である。
この言葉は要するにすぐに枯れに気づかず頭を下げなかったことに対しての言及であり、不敬であると主張しているものである。
『シルヴァンの連れのくせにこの国にいて私を知らないなど世間知らずにも程がある。恥を知れ』
ということであろう。
夜宵がその発せられた言葉に気圧 されて言葉をつまらせていると再び背後からトーマスの声が小さく聞こえてきて、夜宵はそれを復唱した。
「大変申、し訳ございません、でした。わたくしは、レンで生まれ育ち、ました。あちらで、シルヴァン様に助けてい……いただき、此度は、シルヴァン様のごこういにより、国王様にえっ、謁見させていただく、こととなり、今はまだ、謁見の間では、シルヴァン様と国王様がお話をして……されているとのことで、こちらの綺麗な庭を、拝見、いたしておりました」
片言ながらもなんとか言い切り敬語や礼儀作法について学ぶ必要があるな、と自覚した夜宵の肩にふわりと彼の大きな手が乗せられる。
「そうか、レンから……。それはさぞ苦労したことであろう。シルヴァンの連れであればまた会うこともあろう。楽しみにしているぞ」
そう言って彼は庭を去った。
「ヤヨイ様、お疲れさまでした。まさか第一王子であるレオナルド様がいらっしゃるとは思いもせず……」
頭を下げるトーマスに首を振ってみせた。
「ねえ、今の人ってもしかして、ライオンの?」
「はい。あのお方はライオンの獣人です。因みにですが現国王もライオンの獣人でございます。先程おわかりになったかと思われますが、彼の眼力や言葉には強い覇気があります。彼は生まれながらの王です」
それがこの国の第一王子。そして
「あれがみそらの――」
それから間もなく護衛の騎士に呼ばれて謁見の間の扉が開かれ、中ではシルヴァンがこちらを見ており姿を見せた夜宵を見るや口元を手で覆った。
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