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第二章 獣人の国と少年 (十三-前)
「あれで良かったかしら?」
「ああ、十分だ。彼はヒト族だし、シルは獣人の番関係について話してある様子はない。ショックを受けていたし雄でも妊娠できることを彼は知らないのだろうな。そんなことすら伝えていないとは、我が弟ながら詰めが甘い」
夜宵が部屋へ戻ったあと、アリアの部屋ではアリアとレオナルドが話していた。
レオナルドが小さな袋をアリアに手渡す。
中身の金貨を確認したアリアはそれを自身のメイドに手渡し笑みを浮かべた。
「レオナルド様もなかなか残酷なことをなさりますね」
「彼を否定するわけではないが私やシルは王族だからね。家柄もある程度の基準は必要だし、いい血統の跡継ぎを産むことは最低限」
そう話すレオナルドにアリアはクスッと笑う。
「それは建前でございますね。王位継承権第一位であるレオナルド様が婚約者様との間にお子を授かればシルヴァン様は本来自由なはず。レオナルド様も婚約やお子を授かることに関して反対の意思は持たれておりませんよね。そうなると何か別の事情がお有りなのでしょう?」
レオナルドも図星をつかれ口角を上げる。
「流石だなアリア嬢。そうだ。単純に弟がどこの馬の骨とも知れないやつと番ってほしくないだけだ。私の……いや、僕のわがままだ」
そう言ったレオナルドの表情が大変優しい顔をしていたのをアリアは見逃さなかった。
一方部屋に戻った夜宵はシルヴァンと遭遇し、気まずさのあまり口も聞かずくるりと背を向けていた。
「夜宵……?」
「ごめん。今ちょっと顔を見たくない」
夜宵は一人中庭へ向けて歩き出した。
夜宵がこの王宮に来て行ったことがあるとすればシルヴァンの部屋の他は謁見の間とその前にある中庭とダイニングルーム、それから浴室だけであったためいざ部屋から出たとしても行くところなどない。
ココ――港街から連れてきた下男――は先程下がらせてしまったし、特にすることもない。しかし夜宵がどこかへ行ってしまわないように警備の兵はそこかしこに立っているし、彼らによって行ける部屋が制限されているのは確かなのである。
「どうしたらいいんだろうな……」
低木の真ん前でしゃがみこみバラの花に話しかけていると、夜であるにも関わらず月明かりによってキラキラ輝く金の髪をした青年が弥生に話しかけた。
「なにか困りごと?」
「わっ!レオナルド殿下!?びっくりした」
「はは。急に話しかけて申し訳ない。それで、そんな顔をして何があったのかな」
レオナルドも夜宵の隣にで屈み込む。
話して良いか熟考するうち、答えるより先に腕を掴まれてしまう。
「私の部屋へおいで。お茶をご馳走するから今夜はゆっくり話そう」
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