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第二章 獣人の国と少年 (十六-後)
シルヴァンも、夜宵に伝えていないことは沢山あるがあのレンでの一件から助けてくれたことは事実であり、ここに来るまでの間彼が夜宵のことしか見ていなかったのは紛れもない事実。
腕の傷を見でも過去の話をしてもその腕に抱きしめてくれた大切な人。
だからこそこれ以上シルヴァンから受けた愛を忘れたくないし、奪われたくもない。
思い出は思い出として残ればいい。シルヴァンは元の世界に返してあげるべきだ。
そう思った。
けれど何度考えても、何度ここから逃げようと思っても、シルヴァンの傍に居たいという願望が夜宵の足を止めてきた。
出来ることなら離れずに……
「みそら、アリア嬢と結婚して子供作りなよ」
「夜宵……?」
シルヴァンの周囲から部屋の空気が凍りつく。
「僕は王族の番には相応しくないよ」
「誰に何を吹き込まれたかは知らないが、俺は夜宵と――」
「したい?いいよ。抱いてよ」
静止するシルヴァンの声を遮り夜宵はソファに座るシルヴァンの膝の上に正面を向くように跨り上半身の服を脱ぎ捨てる。
――一回でいいからその熱を僕にちょうだい
シルヴァンの頬に両手を添わせ、ゆっくりと顔を近づけていく。
互いの吐息がぶつかりいよいよ肌が触れそうなその瞬間、夜宵の唇は彼の唇ではない何かにぶつかった。
触れる直前のその僅かな隙間にはシルヴァンの手が滑り込んだようで夜宵の唇が受け止められたのはシルヴァンの手のひらだ。
「だめだ」
「……みそらはキスでさえ許してくれないんだね」
「何を」
「そうだね。男同士のこんな行為に意味ないもんね」
シルヴァンの膝の上から降りた夜宵は脱ぎ捨てた服を羽織り、シルヴァンに背を向けたまま声をかける。
「ちらっと聞いたんだけど、レオナルド殿下のところってハーレムがあるんだよね?何人か男もいるらしいね」
言い残して部屋を去ろうと思っていた夜宵が掴んだドアは夜宵のものではない手によってその動きを遮られた。
「退いてくれない?って、ちょっ!何!?」
そのまま腕を掴まれた夜宵は抵抗虚しくベッドまで引きづられ、体格差のある身体はあっけなく放り投げられる。
起き上がるよりも先に覆い被さられ、両手を頭の上で抑えられてしまった。
「そんなに抱かれたかったら抱いてやるよ――」
そう言ったシルヴァンの目には光などなく、噛みつかれるようにされたキスは熱く、冷たく、夜宵の目から涙がこぼれた。
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