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第二章 獣人の国と少年 (十七-後)

手を止め様子を伺っているシルヴァンに夜宵が微笑みを向けると、シルヴァンは夜宵の胸に顔を埋めた。 「はぁ。なんでそんなに可愛い顔をするんだ……」 「可愛いかどうかは分からないけど、あまりにもみそらが心配そうな顔をするんだもん。そりゃびっくりしたけど……きもち、よかったし……そんなに心配しなくても、いいよ」 シルヴァンは再びため息をつく。 「……俺は、やっぱりお前と番になりたい。ここに来る時番になることを承諾してくれたじゃないか。俺と番になるのが嫌なら早く言ってくれれば良かったのに……」 夜宵は握られていたせいで少々力の入りにくくなっている腕を下ろし、シルヴァンの頭を抱え込むように巻き付けた。 「嫌じゃないよ。嫌なわけない。でも、シルヴァンにはちゃんと相手がいるじゃない。子供を作るのだって絶対僕なんかよりアリア嬢の方が適任でしょ?」 額を押し付けたままシルヴァンは首を横に振る。 「それは政治的な繋がりで仕方なくだ。第一俺はそうやって家のことでしばられるのが嫌で王宮を出たんだ。俺は夜宵と番いたい。だからアリアとの婚約破棄を父上に申し出たんだ」 「それ、嘘じゃなかったんだ……。でも僕も男だし、子供産めないよ?」 「……産めるよ、男でも」 シルヴァンは男性でも妊娠できる薬があるのだと夜宵に説明した。 しかもそれは獣人でなくても効果は出るという。 薬を開発した梟族がレンに拠点を置いていたことからシルヴァンは夜宵がこの薬の存在を知っているものだと思い込んでいたらしい。 「兄上と夜宵のことを話した時『彼は何も理解していないよ』と言っていたんだ。まさかこのことだったとは……」 他にも夜宵が不安だ、とか言っていたとシルヴァンが言うと、今回は夜宵も素直に口を割った。 「……ついでに言うと、『番』についてもよく分かってなかったんだ。ヒト族には番ってものは存在しないから。僕は勝手に伴侶的な意味だと思ってたんだけど、ここに来てみたら婚約者がいたから……隠されてたって思って、悲しくて……それをレオナルド殿下に話したからかも」 シルヴァンは頭を抱き抱えられながら頭を上げ、夜宵と目を合わす。 「悪かった。初めから話しておけばよかった。無駄な心配をさせたくなくて、全て話が進んでからちゃんと話すつもりだったんだ」 うん、もう分かってる、と夜宵はシルヴァンの頭を撫でる。 「僕もちゃんと聞けばよかったんだ。だから、おあいこ」 チュッと軽い触れるだけのキスをする。 「父上には夜宵を番にすることは認めてもらっている。なあ夜宵、俺の番になってくれないか?一生夜宵だけを愛することを誓うよ」 「僕でいいの?ヒト族だし、その、僕の体は全然綺麗じゃ――」 「関係ない。夜宵がいい。夜宵が好きだ」 「僕も、みそらが大好き。僕を番にして」 二人は深い深い口づけを交わすと、シルヴァンの発情期までの一時的な予約の印として互いの首筋にキスマークを残した。 狼族の発情は満月の日がピークで、当日と前後合わせて約一週間続く。 次の満月の日まではあと五日である。

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