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第二章 獣人の国と少年 (二十二-後)

「失礼致します。奥様、お目覚めでいらっしゃいますか?」 部屋の外からドアをノックする音と共に夜宵に聞き覚えの無い声が夜宵の耳に触れる。 ココが騎士団に配属になってから三日経ち、新しく使用人が雇われた。 ハリーと名乗った彼は身長が夜宵よりも頭一つ分小さく、彼の容貌は随分と幼い印象を夜宵に与えた。 「本日より奥様の身の回りのお世話をさせていただきます。ココ様とトーマス様からお話は伺っておりますが、不都合がございましたら仰ってください」 無邪気な笑顔でハキハキと、しかし余計なことは言わず必要最低限の挨拶を並べていく。 「えっと、奥様って僕のこと、だよね?」 「はい。第二王子であらせられるシルヴァン殿下の番でいらっしゃいます上、ゆくゆくはご婚姻もされるとお聞きしましたので、奥様とお呼びするのが適切かと判断致しました」 夜宵は「婚姻」の言葉に困惑しつつ、自身のことは名前で呼ぶよう頼んだ。 「承知致しました、様」 夜宵の環境変化はもうひとつ、第一王子であるレオナルドの厚意により教師がつけられたことだ。 物知りだと言われている梟族から初老の男性が選ばれ、文字の読み書きから始まりべスティアの地理や歴史、レンとの関係、べスティアの他にも存在する獣人の国やレン以外のヒト族の国についてなどの授業がされていく。 このままシルヴァンの番として過ごしていくには夜宵はあまりに知らなすぎた。 晩から朝まで教師の話を聞いては教科書や地図とにらめっこをする日々がひと月半経過し、夜宵はべスティアの地理と歴史を頭に叩き込んだ。 夜宵が本来勉強すべき年齢だった時は、既に見世物として体を売り生活していたため、勉強をさせてもらえることで改めて一人のヒトとして見てくれていることを実感できた。 今日は何を学ぶのかと待っていると、開いた扉から入ってきたのは待っていた人物ではなく自身の番。 それに続き先生は部屋に入ってくる。 「あれ?みそら、何でいるの?」 「今日は俺も一緒に授業だ」 「そうなの?ヘドウィグ先生、今日は何の授業?」 「ヤヨイ様、こんばんは。本日は子作りに関する授業をさせていただきますので、シルヴァン殿下にもいらしていただきました」 「こ……子作りッ!!」  カッと熱くなった頬を隠すように夜宵は両手のひらを頬に当てた。

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