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第2章 獣人の国と少年 (二十四-前)

シルヴァンの表情を見て夜宵はクスクス笑う。 「前に僕が屋敷を飛び出したことあったでしょ?その時にね、気付いたら森の中に入っちゃってて」 「入……れたのか?」 「入れた。入るまではそこが野鳥の里だとか結界があるとか知らなかったんだけどね」 「そうか……」 シルヴァンは顎に手をかける。 「もしかしたら夜宵は野鳥の里の生まれか、その一族の子なんだろうな。あそこは入れる奴を森と風が選ぶんだ。拒否されなかったということは同族だと見なされたのだろう。それに……」 夜宵の生活は夜型で、レンに居た頃の生活リズムの為についた癖なのではないかと思い込んでいた。 しかし、これがもし癖でなく生まれつきのものだとはっきりすれば、夜行性の鳥類の半獣人であることが説明できる。 「ねえ、みそら」 「多分、今夜宵が考えてる事は俺にも分かるぞ」 「うん……。僕のお父さんを、探したい」 シルヴァンは夜宵の頭を撫で、一緒に探すことを約束した。 穏やかな馬車の揺れに身を委ねて眠っていた夜宵だが、目を覚ますと馬車の窓から夕陽に染まった海が見えた。 「わあ!海!」 「お、起きたか。そろそろ着くぞ」 街の入口からは、遠目からでも分かるほど人が集まっている。歓声に包まれながらシルヴァンは夜宵の肩を抱いて手を振り、夜宵は念の為例の獣耳カチューシャを着けてシルヴァンと同じように手を振った。 屋敷に着くとメイドたちに出迎えられ、そのままシルヴァンと夜宵はお風呂に入り、食事を済ます。 部屋に戻ってから落ち着きがなく外に意識を向ける夜宵に、シルヴァンはソファ座るよう声をかけ、自身も隣に腰を下ろした。 声をかけるかかけまいか、悩んだシルヴァンは一言呟くようにして一言発した。 「……行くか」 「へ?」 まるでバネを踏んだかのようにシルヴァンは突然夜宵の手を掴んで立ち上がり、クローゼットの前へ連れていくとあっという間に夜宵の部屋着を剥ぎ取りクローゼットから適当なものを手に取った。 白いシャツ一枚と黒い細身のパンツを差し出されたため慌てて受け取ると、シルヴァン自身も服を脱ぎ始めた。 シルヴァンの服はどこにあるのかと夜宵がクローゼットに目を向けると、クローゼットの左半分に小さめの服、右半分に大きめの服がかけられているのが目に入った。 シルヴァンは右側の大きい服の中から夜宵が渡されたものと同じデザインの白いシャツを手に取り、黒いパンツを手に取った。 大きいサイズの服はシルヴァンの体にピッタリで、どうやらこれは元々シルヴァンの服らしい。 ではその隣にある小さいものは誰のものであろうか。明らかにシルヴァンが袖を通せるサイズではない。 それに、見たところどれも新品であり使われた様子はないためシルヴァンが元々着ていたもの、という訳でも無さそうだ。 勝手に服を借りてしまってもいいのだろうか、クローゼットを見ながら考え込んでいる間にシルヴァンの着替えが終わってしまったようで、夜宵も慌ててシャツを着る。 国王に謁見した時に着用した正装程ではないが、それなりにちゃんとしている服装である。 「あ、ピッタリ……」 着てみると、驚く程に肩幅も丈もパンツの腰も全て夜宵の体にフィットしていて、まるで自分のために作られたようだと夜宵は感じた。 「似合うな」 シルヴァンは頭の頂点から足の先までまじまじと見つめ、頷いた。

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