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第二章 獣人の国と少年(二十五-前)

街を抜け、乾燥した落ち葉や枯れ枝を踏みながら森を進む。 「多分、この辺……」  丸一日あけた日が沈みかけた頃、二人は夜鳥の里に向かうため夜宵の記憶を頼りに森に入った。  今回は靴を履いているから足の裏を怪我せずに済む、などと考えているうちにふわっと風が夜宵の髪を擽る。 「あ──」 「どうした?」 「こっちだ」  夜宵はかつて訪れた時も感じた風の案内を頼りに軽い足取りで木の間を縫って歩いていく。  シルヴァンが見て取れるような目印などなく、ただでさえ日暮れで暗くなり迷いそうな中で似たような木が立ち並ぶ森であるにも関わらず、なんの迷いもなくスイスイと進む。 「おい、夜宵!」  たまに飛び出ている枝や根に足を取られながらも、はぐれてしまわないようシルヴァンは夜宵の背から目を離さないようについて行く。 「ここだ」  立ち止まった夜宵の隣にたどり着くと、見た景色は変わらず森のまま。しかし確かに、そこに気配がした。 「みそら、行こう」 「ああ」  手を繋いで一歩踏み出すと、瞬間周りの景色が歪み強い目眩に似たもの感じたのと同時に、そこに広がった景色は先程まで見ていた森とは全くの別物であり、枝や葉で組まれたアーチをくぐると大きな屋敷が見えた。 「大きいね」 「だな」  つい最近まで滞在していた王宮の方が大きいだろ、と思いつつシルヴァンは頷く。真っ直ぐ進み屋敷の門の前に立つと、ぶわっと風が吹くと同時に門がゆっくり開いた。ドキドキしてその光景を見つめていると、中から聞き覚えのある声と姿が見えた。 「君!来てくれたんだね!!」 「うわぁ!タルデ!?」  ガバッと抱きついてきた彼は、以前夜宵が迷い込んだ際助けてくれた夜鳥の里に住む獣人だ。 「君がまた来てくれるのをずっと待ってたんだ。あれから姿が見えなかったし、風の噂で王宮にいるって聞いて、覗きに行ったら本当に居るんだもの。もうこっちに戻ってこないかと思ったよ!けど戻ってきてくれたんだね。どう?私と番にならないかい?……っと、今日は怖い顔のオオカミさんを連れてるんだね。どうしたの?」  怖い顔、と聞いて夜宵が振り返って見ると、眉間に深い皺を寄せて睨みつけるようにこちらの様子を伺っているシルヴァンの姿があり思わず吹き出してしまった。 「ふはっ!なんて顔してるの。み……シルヴァン、こちらタルデ。この里の結界を守ってるんだって。で、タルデ、こちらシルヴァン。僕の──」 「シルヴァンって……あの?べスティアの第二王子の」 「ああ」 「た、大変申し訳ございませんでした」  タルデは夜宵に預けていた体重をサッと戻し、慌てて姿勢を正して頭を下げる。 「いい。べスティアにあるとはいえそもそも夜鳥の里はほぼ独立しているようなものだ。それに夜宵の知人のようだし気にするな」 「ヤヨイ……君はヤヨイっていうんだね。凄く良い名前だ。君にピッタリ。それに――」 「それに?」 「……いや、これは私が言うことではないかな。直接里長に聞くといいさ。で、二人が今日来た要件は?まさか番ってわけじゃないだろうし、何か依頼ごと?薬の作成なら傷薬とか咳止めとかなら今あるやつ調整すればすぐ出せるけど」 「えっと、そのまさかで、今日は受胎薬を貰いたくて……」 「……へ?」

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