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獣人の国と少年(二十六-後)
「出来なかったのだ。レンでは獣人は堂々と生きることはできない。できるだけ人目に晒されないよう暮らしていたのだが、狩りに出たときに姿を見られてしまってな。狩人の追手が来てしまったのだ。逃げているうちに3日ほど経ち、戻った頃には家はもぬけの殻だった。あれから何度か見に行っているが、妻も息子も帰ってこない。きっと追手がそちらにも行ってしまったのだろう。幸い死体は無かったし、血痕も無かった。無事に逃げ延びていることを祈るばかりだったんだ」
夜宵にも身に覚えのある話だった。獣人の迫害は自分の身でも体感している。ひとつ気になるのは、里長の話がどうも他人と思えないということだ。どうやらそれは里長も感じているようで、感じているからこそ話してくれたのだと夜宵は思った。
「あの、もし息子さんと奥さんが生きていたとしたら、会いたいと思う?」
「当然だ」
言うと里長は夜宵の肩に手を置いた。
「ヤヨイ、一度検査を受けてみないか?君がもし夜鳥の獣人の血を引いているなら、この里の誰かと親子関係の可能性がある。やってみる価値はあると思うんだ」
「検査、できるの?それで親子かどうかわかるの?」
「ああ」
「じゃあ、やる。何をすれば良い?」
遺伝子検査は簡単なキットが開発されているらしい。口腔内の粘膜を綿棒で擦り、粘膜細胞を付着させる。そこからDNA鑑定をするという。
キットが手早く用意され、夜宵は大人しく口を開ける。検体採取は痛みなくあっという間に終わった。結果が出るまでは十日ほどかかるため、結果が出次第通知を送ると里長は約束した。
全て用事が終わり、夜宵が部屋を出ようとしたその時里長は夜宵を引き止めた。
「言うか迷ったのだが……。実は私の息子も名を『やよい』というのだ。どうにも君に会えたのは運命だとしか思えない。もしかしたら君が私の――。……いや、なんでもない。結果は鑑定で出るだろう。また結果が出た頃に来るといい。君には……どうか家族が見つかりますように。……待っている」
「うん」
部屋を出た夜宵はシルヴァンと合流し、皆に見送られながら里を出た。
結果が出るまでの間、夜宵とシルヴァンはまたポースシュタットの屋敷に滞在することにした。王宮に戻ってしまうと、再びここに来るまでが時間がかかりすぎる。
「でも僕は王宮もキラキラしてて良いけど、こっちの方が落ち着くなぁ」
「奇遇だな。俺もだ」
それから七日程経ってからだった。野鳥の里から手紙が届き封を開けてみると検査結果などは書いておらず、ただ簡潔に、至急二人揃って里へ来るように、という内容だった。
「もしかして僕の家族見つかったのかな?」
「そうかもな。もしいなかったのなら『いませんでした』と通知すれば済む話だからな。急いで向かおう」
二人は慌てて支度をして野鳥の里へ向かった。
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