4 / 12

第4話 前

近くの椅子に案内すると、男はオドオドしながらも大人しく座った。 飲み物を「どうぞ」と言って渡すと、男は小さい声で「どうも」と答えた。 向かいの席に俺が座ると、周りをキョロキョロと見渡し始めた。 そして俺をマジマジと見つめる。 「私は森永と申します。あの…君がこの店の責任者の方なのかな?」 「自分は綾人といいます。このお店を手伝っているだけで、責任者というか、店長は別の人です」 「そうなのか。もうその歳で働いてるのか。偉いな。それに比べて私は…」 どうやら、気持ちが落ち込みやすい人らしい。 「では森永さん、店長が来るまでもう少し時間がかかるので、先に依頼内容を聞いても大丈夫ですか?」 「え、あぁ。依頼内容は…」 そう言うと慌てた様子で、男はカバンの中に入っていた手帳を取り出して予定を見始めた。 「1週間後の9月24日に、私と買い物に付き合ってほしいんです。ただ、それだけでいいんです」 「買い物ですね。分かりました。場所は決まってますか?」 「行く場所は当日に伝えます。集合時間と場所はまた後日、こちらから連絡します。必要なものは全てこちらで揃えるので」 「分かりました。では、金額の方ですが…」 すると、ひんやりとした手が俺の肩にそえられた。 「…!」 驚いてその人物を見ると、ミツリだった。 店の入口に背を向けていたので気づかなかった。森永さんも、話すのに夢中で気が付かなかったようだ。 ミツリは俺の隣の椅子にストンと腰掛けて、森永さんをジーと、見つめる。 「綾人、新しいお客さん?」 「来るのが遅い!そうだよ。あ、森永さん、この人が店長のミツリです」 森永さんはミツリの気迫に少し押されているようで「どうも…」とだけ言って目線を逸らした。 ミツリはそんな態度にも気をとめず、ニヤリと笑った。 「森永さん、この度はご依頼ありがとうございます。料金の方は内容にもよりますので、依頼後にお伝えする形でも大丈夫ですか?」 「は、はい。とんでもなく高くなければそれで大丈夫です」 「ははっ。それはよかった。では当日、よろしくお願いします」 「あ、こちらこそお願いします。あの…ではこれで失礼します」 「あ、森永さんちょっと…」 という俺の声を聞かず、森永さんは足早に店を出ていった。 最初から最後まで落ち着きのない人だ。 ミツリはカウンターの方へ座り、俺を呼ぶ。 「綾人、お水ちょうだい」 「はいはい。遅れてきたのに人使い荒いな」

ともだちにシェアしよう!