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第4話 前
近くの椅子に案内すると、男はオドオドしながらも大人しく座った。
飲み物を「どうぞ」と言って渡すと、男は小さい声で「どうも」と答えた。
向かいの席に俺が座ると、周りをキョロキョロと見渡し始めた。
そして俺をマジマジと見つめる。
「私は森永と申します。あの…君がこの店の責任者の方なのかな?」
「自分は綾人といいます。このお店を手伝っているだけで、責任者というか、店長は別の人です」
「そうなのか。もうその歳で働いてるのか。偉いな。それに比べて私は…」
どうやら、気持ちが落ち込みやすい人らしい。
「では森永さん、店長が来るまでもう少し時間がかかるので、先に依頼内容を聞いても大丈夫ですか?」
「え、あぁ。依頼内容は…」
そう言うと慌てた様子で、男はカバンの中に入っていた手帳を取り出して予定を見始めた。
「1週間後の9月24日に、私と買い物に付き合ってほしいんです。ただ、それだけでいいんです」
「買い物ですね。分かりました。場所は決まってますか?」
「行く場所は当日に伝えます。集合時間と場所はまた後日、こちらから連絡します。必要なものは全てこちらで揃えるので」
「分かりました。では、金額の方ですが…」
すると、ひんやりとした手が俺の肩にそえられた。
「…!」
驚いてその人物を見ると、ミツリだった。
店の入口に背を向けていたので気づかなかった。森永さんも、話すのに夢中で気が付かなかったようだ。
ミツリは俺の隣の椅子にストンと腰掛けて、森永さんをジーと、見つめる。
「綾人、新しいお客さん?」
「来るのが遅い!そうだよ。あ、森永さん、この人が店長のミツリです」
森永さんはミツリの気迫に少し押されているようで「どうも…」とだけ言って目線を逸らした。
ミツリはそんな態度にも気をとめず、ニヤリと笑った。
「森永さん、この度はご依頼ありがとうございます。料金の方は内容にもよりますので、依頼後にお伝えする形でも大丈夫ですか?」
「は、はい。とんでもなく高くなければそれで大丈夫です」
「ははっ。それはよかった。では当日、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそお願いします。あの…ではこれで失礼します」
「あ、森永さんちょっと…」
という俺の声を聞かず、森永さんは足早に店を出ていった。
最初から最後まで落ち着きのない人だ。
ミツリはカウンターの方へ座り、俺を呼ぶ。
「綾人、お水ちょうだい」
「はいはい。遅れてきたのに人使い荒いな」
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