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第5話
ミツリが人の心を読むことができると教えてもらったのは、ミツリに拾われてから少し経った頃だ。
相手を見るだけで、その人の考えていることや気持ちが文字となってミツリの頭に流れ込んでくるらしい。
とても便利な力だが、ミツリはこの話をしている時、あまり楽しそうな顔をしていなかったのを覚えている。
けれど今まで、ミツリはこの力のおかげで幾つもの依頼をこなしてきた。
依頼者のことを見つめていたのは、きっと相手の心を読んだからだろう。
そして予想通り、彼は答えた。
「綾人の言う通り、森永さんの心を読んだよ」
「じゃあ…」
「でもなんで知りたいの?」
「そりゃ、明らかに怪しいだろ。ただの買い物に普通、何でも屋なんか使うか?一人で行くだろ。もし一人で行きにくいところなら、事前に場所も伝えるはずだし」
「なるほどね。いい考えだ。けど、綾人には教えなーい」
「…は?どうして?」
「その方が面白そうだから」
思わぬ返事に、カウンター越しに彼の肩を掴んだ。
「ミツリ、どういうことだよ。やっぱなんか……っ!」
けれど掴んでいた手を、強く握られた。
その力強さに、言葉が出てこない。
やってしまった。そう思ったが既に遅く、彼は静かに微笑む。
「綾人、自分の立場分かってるの?」
「……」
「俺、触れるのは好きだけど触れられるの嫌いなんだ。早くその手をどけて」
俺は急いで手を離した。
「わ、悪い。忘れてた。俺…」
すると次は、彼から俺の頬に触れた。あいかわらず、ひんやりとした手で。
思わず、ビクリと体が反応する。
「昨日の夜は遅くまで起きてたから綾人も寝不足なんだね。安心して。今回の依頼が終わるまでは、いつものあれは無しにしよう。いいね?」
「…あぁ。分かった」
「うん」
すると彼は俺から離れ、飲み終わったコップを片付け始める。
ミツリはさっきのことがなかったかのように、話を続ける。
「依頼のことは安心してよ。綾人に危険はない。これは本当だよ。俺も遠くから見てるから」
「…そうか」
俺の体はまだ少し震えて動けないが、ミツリはさっきと同じく店の椅子へ腰掛けた。
「来週が楽しみだな〜」
そう言って、また彼は眠りについた。
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