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第8話

それから、森永さんとは色々なビルで買い物をした。イヤリングを選んだり、新しい服を買ってみたり。 多くの思い出の写真も撮った。 周りからは親子のように見えているのか、全く怪しまれる様子もなく夕方になった。 多くの買い物を済ませた俺たちは近くの公園のベンチに腰かけた。 「結構歩き疲れましたね。色々と買ってくださってありがとうございます」 お昼ご飯も、買ったものも、ほとんどが森永さんが支払ってくれた。 それに彼は笑顔で応える。 「私が依頼して買い物に付き合ってもらってるので気にしないでください」 そしてしばらくの沈黙が訪れた。 お互いに何を話したらいいのか分からない。 すると、森永さんの左手の薬指には、銀色に輝く指輪がはめられていた。 「失礼なことを聞きますが、森永さんの御家族は?」 「妻と高校生の娘がいます。今は訳あって離れて暮らしてますが…。とりあえず仕事を頑張ろうと思って」 「そうですか。変なこと聞いてすみません」 「ハハハ。大丈夫ですよ。気にしてないので。私、近くの自販機で飲み物買ってきますね。何か飲みたいものありますか?」 「え、俺が行きますよ」 「休んでもらってて大丈夫ですよ。その代わり、荷物をお願いします」 「じゃあ…お言葉に甘えて、コーラで」 「分かりました」 そう言って森永さんは小走りで姿を消してしまった。 もしかしたら森永さんは、こういうことを娘さんとしたいのかもしれない。 どうして今は離れているのだろうか。流石にここまで聞くのは踏み込みすぎかな…。 すると、公園に数人の若い男性が大声で話しながら入ってきた。 そして俺のことに気づくと、ニヤニヤと笑いながら近寄ってくる。 逃げた方がいいかも。 そう思って荷物を持ち、立ち上がったところで男の一人に腕を掴まれた。 「なあお姉さん、俺たちと遊ばね?」 「大丈夫です。急いでいるので」 声で男とバレるかと思いきや、彼らは気づいていない様子で話しかけてくる。 「大丈夫大丈夫。俺たちこう見えて優しいから。少しお話でもしよ?」 「いや、離してください!」 「騒ぐなよ。殴られてぇの?」 「いやいや、殴るとしても可愛い顔してんだから顔はダメだからな」 「いいから早く連れてこうぜ」 「そうだな」 「!!」 腕を強引に引っ張られたとき、黒のパーカーを着た男が、俺の腕を掴んでいた男の顔面に殴った。 殴られた男は俺の手を離し、地面に倒れる。 突然のことに驚いていたのは俺だけではなく、男たちもだった。 パーカーの男はフードは被っているので、顔が見えないため誰なのか分からない。 その場に居た全員が、黙ってしまう。 するとパーカーの男がスマホを取りだし、その画面を男たちに突きつけて言った。 「女の子をどこかに連れていこうとしてたって警察に電話するけどいいの?」 画面には110と表示されていた。 流石に警察というワードを聞いた男たちは 「ヤバいぞ」 「早く倒れたそいつ持てよ」 「行くぞ」 「チッ」 と、捨て台詞を吐いて公園から出て行った。 俺は声を聞いてパーカーの男が誰なのかすぐに分かった。 力が抜けて、またベンチに腰掛ける。 そして一個のため息をついた後、問いかける。 「お前、ミツリだろ?」 「せいかーい!」 フードを取った彼は、笑顔でそう答えた。

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