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真昼の本音と夜彦の本気

 "ようちゃん、大好き……ようちゃん、大好き……ようちゃん、大好き" ようちゃんが僕の骨をしゃぶった時に返事が出来るように、身体中の骨に染み込ませる。 まぁ、その前に解剖されるのか……悪くないな。 混濁した意識の中でそれだけは確かなんだ。  ドロリ……ドロ、ドロ 身体におびただしい量の液体が流れこんできた。 液体の麻酔薬か。 こんなところでも使われるんだ。 だって、すんごい痛いんだもんね。 僕は平気なのにな。  ドクン 急に身体中からエネルギーが溢れてきた。 おかしい。 何が起きたんだ。 ドクン、ドクン 心臓が激しく動く。 そしてーーーー。  「ぷあっ……エホエホ!」 沸き上がってきた空気を吐き出すと、目が覚めちゃった。 目の前にはなぜか真昼。 顔に汗がにじんでいた。 「こんの、あほぉ!」 言葉とは裏腹に優しく抱きしめられる。 「さいご、ころすあいてにあいをさけぶなんて……ふざけてんのかぼけぇ!!」 罵声のはずなのに、ぜんぜんイヤな気分にならない。 「そんなやつに、ふくしゅうなんてできるかぁ」 ボロボロと泣いて、あほぉあほぉと叫ぶ真昼。 僕は訳がわからなかった。 真昼は僕を恨んでいたはずなのに。  「真昼、なんで? 僕のこと嫌いでしょ?」 「すきじゃ……だいすきじゃ! それがなんやねん!!」 僕から少し離れた真昼は両手で頬を包む。 「ただ生きてくれ……それだけや」 にっこり笑った真昼は僕の口を塞いだ。  「おやおや、2人も吸血鬼でございますのに情けない……たった1人の人間をまともに殺められないのでございますか?」 予期せぬ登場にびっくりして身体を起こした。 部屋の隅で震えながらうずくまっているようちゃんの姿も見えて、またびっくりした。 「ひる、避けてくださいますか?」 いつもと変わらない大人びた笑顔を浮かべながら近づいてきたけど、気配が怖い。 だから、真昼もすぐ避けてしまった。 「夜彦?」 僕は少し怯えながら呼ぶ。 「はい、夜彦でございます」 表情がまったく変わらない。 「夜彦も僕をどうにかするの?」 上手く言えないけど、聞いてみる。 「やつがれが?」 首を右に傾げる。 「貴方様を?」 今度は左。 「まさか、手をかけるなんてお思いには……なるわけございませんでしょう?」 夜彦が大きく目を見開いた。 やっぱり、本当の長は……この人だ。  「お役に立てず申し訳ございません。やつがれは一切貴方様に負の感情を持ち合わせてはございませんので」 夜彦は歯茎を見せて笑い、僕の頭を優しく撫でる。 「『悪魔の御前家の血を受け継いでいる』という無駄なレッテルを勝手に貼ったくだらない考え方には毛頭興味はございません……では、失敬」 頭をポンポンと叩いた夜彦は何事もなかったように立ち上がり、離れていく。 「ああ、ひとつだけ愚鈍の方々に伝達を」 淡々と言う夜彦。 「無限(むげん)殿とお話ししまして、戸籍の削除とちゃんとした住民登録をお願いいたしました。ちなみに日本の戸籍は捏造の可能性があるなど違法のものではないかという結論でございました。すぐに登録できるらしく、明日……まぁ今日でございましょうか。わざわざこちらまでおいでになるそうでございますよ」 語り終わった夜彦ははぁと大きいため息を吐いた。 「まぁ、こんなことをしなくても夕馬の清楚さと優しさと可愛さを身に染みておれば、酷く卑劣な行為など出来るはずがないのでございますが……恥を知りなさい」 僕、難しいことはわからないけど。 3人に許されて 本当に朝日夕馬になって 文潟の住民に登録される。 完全に御前のジュバクから解放されたら、もう殺されることはないってこと? 僕はこれからもようちゃんに愛されていいってことなの? それはもう、幸せだ。  「夜彦!」 今度は力強く呼ぶ。 「はい、夜彦でございます」 ちゃんと僕の方を見てくれている夜彦はもう怖くない。 「ありがとう……好きだよ」 口角を上げる僕。 「おほほ、有り難き幸せ……痛み入ります」 控えめにお辞儀をした後、右目をウインクした夜彦は颯爽と去っていった。 ああ、敵わないな。

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