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夕馬は何故夕馬なの?

 朝ごはんは僕が初めて来た時と同じメニューだった。 でも、いちぐしは上手く食べれたと思う。 それに、今日は隣に座った人が大人びていたから、またいつもと違う安心感があった。 「おほほ、いっぱい食べて大きくなりましょうね」 いつもと変わらない穏やかな笑み。 それが当たり前ではないことを知ったから……守りたいと思ったんだ。  僕の名前が正式に登録されるだけだと思っていたのに、珍しくようちゃんと真昼が協力して僕の部屋を飾り付けをしていた。 「2人はたまに日本へ行くので、零屋さんにはないものをたくさん持っていますから。お任せいたしましょう」 確かに真昼が色の付いた紙を挟みで切って、ようちゃんが輪にして繋げている……ここでは見たことがないな。 「それより今日の衣装はお似合いでございます。やつがれだけのチーズケーキでございますね」 黄色いニットに白のパンツが夜彦にはケーキに見えるみたいなんだ。 まぁ、かわいいし、夜彦が僕のために選んでくれたからうれしい。 僕を自分の前に座らせて夜彦が抱きしめる形になってる……夜の僕とようちゃんみたいな。 夜彦は細長い紙に万年筆で難しい字体で何かを書いてるんだ。 れいしょって言ったかな。 書きづらいのか、何度も書いては新しい紙にしているのに、離れようとしないんだ。  「夕馬は何故、夕馬なのでございましょう?」 つらつらと筆を走らせながら、ぽつりと聞く夜彦。 「それはここでみんなに助けられて、生きてきたからじゃないかな」 僕は感謝を込めて答えてみる。 「貴方様は元々優しい人でございましたよ。見ず知らずの人に恨まれたら、簡単に命を差し出すくらいの純粋なお方でございました」 夜彦はふふっと笑い、強く抱きしめてくれた。 「実は……お初にお目にかかった時から、途轍も無くお慕い申し上げておりました」 いつもより落ち着いているけど、どこか温かみのある声で夜彦は語り始める。 「やつがれは一瞬で貴方様が受けてきた惨劇の数々を存じ上げました。まぁ、完全に解るとまで烏滸ましいことは一切申しませんが」 夜彦はやっと二文字を並べて書いて、おほっと声を上げた。 僕はじっと見てやっとわかった。 "夕馬"か。 「これから一生付き合っていくものでございますから、大事に書かせていただきました」 夜彦は今度は透けるくらい薄い紙を前に置き、ふさふさの毛の筆を取る。 「では、失敬」 夜彦は低い声で言って、僕の首の後ろを噛む。 いきなりの痛みに身体が震えた。 でも、毛先に黒いものがたっぷりと染み込んだ。 「しっかりと愛情も込めねばなりませんので、少々お待ちを」 静かに深呼吸をする夜彦。

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