「……うそ……ジュン……？」 　淳吾は眉間にしわを寄せ息を整えながら瞬きを繰り返していた。 「……サク、俺だよ」 「……どういう、こと……」 　今咲太は淳吾とつながっているということだ。咲太は体をよじって体勢を変えようとしたが、淳吾は咲太を細い腕で抱きしめてきた。淳吾だと思うと、抵抗できそうな腕でも咲太の気持ちの動きは封じられた。 「サク、もう分かっただろ。俺なんだよ。サクのことが好きなんだ……」 「ちょっと、待って……」 「ずっと好きだった。サクのことＳＮＳで初めて見た日から本当はずっと好きだった」 「……」 「でもサクは俺のことタイプじゃなかっただろ？」 「……そん、な……」 「サクは逆を好むだろ？　俺はサクと同じで小柄で童顔。そんな男には抱かれたいって思わないだろ？　俺は……俺はお前のことがタイプなんだ……」 「ちょ……っと、とりあえず、この体勢じゃ、ん……んんっ」 　何も言わさないと言う代わりに唇を奪われた。淳吾の顔になってから初めてキスをされた。さっきの逞しい男とは違って、咲太とちょうど同じくらいの小さな口で穏やかな力加減のキスをされた。咲太は抵抗できなかった。さっきとは違う甘さと優しさが唇からじわっと伝わった。 　唇が離れたと同時に蕾からも性器が抜かれた。ぬれっとなんの抵抗もなく抜かれたが、中からは滝のように温かい粘液が流れたのが分かった。 　淳吾はそれを面白がるように見た。 「あーあ、さっきのごつい男の状態だったから量も半端ないわ」 「やだ、ジュンっ、み、見ないでっ」 　咲太は上体を起こした。ティッシュの箱に手を伸ばした淳吾の下半身には小ぶりなペニスがテカリながらちろちろと揺れていた。やっぱりサイズも明らかに違う。 　淳吾は咲太のお腹やお尻や先っぽをティッシュで丁寧に拭ってくれた。脱力するように二人並んで布団の上に寝転んだ。 「……ジュン、説明、して欲しい……」 　ジュンは両腕を自分の頭の後ろに回した。 「今から話すつもりだった」 　淳吾は天井を見ながら語り始めた。 　ＳＮＳで咲太を見かけたとき、タイプだとまず思った。でもどこかで見たことがあると思い、思い出していると、同じ系列の専門学校に通っていたからだと分かった。 　所属の校舎は違っても授業によっては別の校舎で受けるときがあるからだ。おそらく休憩中の教室内か廊下で見かけたのかもしれない。とにかく可愛いなと思ったことは覚えていた。 　でも咲太のＳＮＳの紹介欄に書かれていた好みのタイプは淳吾自身の見た目とは真反対のタイプだった。ショックだったけれど、淳吾はよく受けに間違われるので慣れていると言えば慣れていた。だから、友達として近づいて中身と気持ちで振り向かせるしかないと思ったのだ。 　最初は、淳吾も受けの振りをし、咲太と同じ、長身でがっちりした男性が好みのタイプだと嘘をついて警戒されないように話を合わせた。 　咲太と仲良くすればするほど、自分の気持ちを抑えることができなくなった。目の前に好みの可愛い顔と華奢な体があるのに、ちゃんと触れることもできない。手をつなぐこともできなければ、もちろんキスも。 　淳吾は苦しくなって、もう告白しよう、ダメ元で気持ちを打ち明けてみようと本気で思い始めた。 　ある夜、自宅アパートで立ったまま熱いシャワーを頭に浴びせながら目を閉じて咲太のことを考えていた。どう告白するか、断られた場合はどういう距離感にするか、うまくいった場合は背の低い華奢な自分の体でどう咲太の体を喜ばせるか。 　そんなことを考えていると何かがコンと額に当たった。目を開けるとシャワーヘッドが目の前にあった。いつの間にかシャワーヘッドを手にしていたのかと思ったが、シャワーヘッドはちゃんとヘッド掛けに掛かっている。いつも立っていてもヘッド掛けの位置は淳吾の頭一つ分上にある。 　湯気で曇った鏡に映っている自分のシルエットに違和感を覚えた。いつもより目線の位置が高く、肌の色が黒い気がした。慌てて拭った鏡に映っていたのは別人だった。 　手や腹や下半身を見ると明らかに自分ではないと思った。咲太のことが好き過ぎて頭がおかしくなったのかと思い、風呂を飛び出してもう一度洗面所の鏡を見た。しかしそこに映っていたのは、色白でスリムな、童顔の自分、ではなかった。 　背の高い、色黒の、筋肉質で精悍な顔立ちの男に変身してしまっていた。 　これは夢かもしれないと思った。心の奥で咲太の好みの男性に変身して咲太を振り向かせようと思っている自分が作り出した夢なんだ。願望が夢になっただけだ。夢なら夢を楽しもう。そう思い、攻めである淳吾にとって個人的な興味はなかったが、咲太がどんな体に興奮するかボディチェックを行うことにした。 　もみあげから続く無精髭、太い首、盛り上がった肩と二の腕と胸、割れた腹筋、毛深くごつごつした脚。そして、長くて太くて重い竿と袋。これだ、咲太の好きなのはこのサイズだ。 　淳吾はベッドに仰向けに寝て、いつものように咲太を犯しているシーンを想像して自慰をした。予想を超えるサイズに膨れたそれは本来の自分のものとは違い、大きな手でも握ってこするのにパワーが必要だった。 　咲太が淫らな格好で喘いでいる顔と声を想像するだけで、すぐに絶頂に達した。 　目を開けて上半身を起こし白濁を拭き取ろうとしたときにまた異変に気付いた。自分の体が元の淳吾に戻っていた。淳吾の細く薄い腹に飛び散った白濁はもう脇腹へと垂れ始めていた。 　自慰の時間からして咲太を想う気持ちの大きさには差がなかったようだ。ただし噴射された白濁の量には大きな差があった。使うティッシュの量で言えば元の淳吾の方が経済的だった。 　翌朝目覚めのシャワーと同時に、そして就寝前のシャワーの後も自慰をした。やはり同じ現象が起きた。ある日はシャワーを浴びずに自慰をしてみた。それだと前までの日常と何ら変わりなく元の淳吾の姿のままだった。 　冷たい水でも何の変化もなかった。つまりはシャワーで浴びる温度くらいのお湯だとこうなるのことが分かったのだ。 　語り終えた淳吾の横顔は決しておどけているようには見えなかった。尚更咲太の中にはもやもやが広がった。 「だからさ、これからの生活自体をどうしようかなって思ってたとこでさ、それもサクに相談しようかなって」 「……って言われても、にわかにはまだ信じ難いよ……」 「さっき目の前で見たじゃん」 「そうだけど……」 「何ならまた同じコース味わってみる？」 「いいよ、何言ってんの」 　咲太は横を向いた。 「冗談だって、ごめん」 　淳吾は咲太の肩に手を置いた。手からじわっと温もりが伝わった。 「でもなんか、ジュン、辛そうには見えないけど……」 　背中からは何も言葉がなく気になって淳吾の方を向いた。淳吾は待ってたかのように薄く微笑んだ。 「だって、サクのタイプの男になれるわけだし、サクに喜んでもらえるならまあそれもいいかな、なーんってね」 「な、何言ってんの、もう」 　咲太は立ち上がった。 「僕、シャワーするね」 「ほーい、やっちゃいましたからね」 「っるさい」 「俺はやめとくねっ」 「の方がいい」 「今度はサクが変身したりして」 「バカ」 　咲太はそう言われるような気がしていたが、淳吾ほど誰かを想っているわけじゃないと思い直した。 　恐る恐るシャワーからお湯を出して腕にかけた。何も起こらないことを確認して咲太は小さく安心の息を吐いた。 　もし今自分が変身するとしたらいったいどんな姿になるんだろう。 　余計な想像をした自分を掻き消すようにボディソープのポンプをカシカシと強く押した。