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ある日、森の中③
「ホント酔うと、感じが変わるな。」
クスクスとまた、彼が笑う。
「......僕よりも田畑課長の方が、酷いと思いますけどね」
ポソリと呟くように言うと、ピンク色のカクテルの入ったグラスにまた手を伸ばそうとした。
「あー......。
俺はそんなには、酔ってないかな。
って言うか、これくらいじゃ酔えん。
久米君はそんなので、そんなに酔っ払うとか......可愛いな」
再び彼はお姉さんに追加で先程と同じモノを頼み、まるで水か何かを飲むみたいに平然とそれを煽った。
......何だよ、それ。
確かに課長からしてみたら僕なんて、子供かも知れないけれど。
ちょっとだけムカついたから彼からグラスを奪い、そして残りを一気に飲み干した。
喉が、焼けるような感覚。
そして一瞬の内にそれが全身を駆け巡り、体が燃えるみたいに熱くなった。
「ちょ......お前、何やってんだよ!?」
いつも穏和な彼から漏れた、聞いた事のないくらい狼狽したような声。
......ざまーみろ!
何となく勝ち誇ったような気になり、僕は彼に向かってそう言ってやったはずなのに。
......その瞬間ぐにゃりと、世界が歪んだ。
ちゃんと記憶があったのは、そこまでで。
次に目を開けた時、視界に入ってきたのは、見覚えのない真っ白な天井。
ここ、どこだよ?
......頭と体が、重い。
気付くと僕は見た事のない部屋にいて、大きなベッドの上で寝転がっていた。
「よぉ、起きたか?
......この、酔っ払いが」
顔を横に向けるとそこには、ソファーに座り足を組む、不機嫌さを隠す気もない様子の課長の姿。
「えっと......、あれ?
ここって、もしかして......」
そろりと顔を回転させ、周囲を確認する。
整理整頓された、無駄なモノが何もない、シンプルな部屋。
でも置かれている家電や家具は、全くそういうのに詳しくない僕でも、ひとめ見ただけで高級なモノなのだろうと分かる。
そしてここの部屋の主が誰なのかを決定付けたのは、壁際に干された、少しくたびれた感じの白衣。
倒れる前とは逆に、一気に血の気が引いた。
「すみません、課長!
ここって、課長のお宅......ですよね?」
恐る恐る、聞いた。
「そうだよ、俺んちだよ。
久米君の家なんか知らないから、運んだんだよ。
......ったく、こんな事になるって知ってたら、飲ませなかったのに」
吐き捨てるみたいにそう言うと、いつも優しい課長の口元がへの字に歪んだ。
なんたる、醜態。
穴があったら、入りたい。
いや......そんなの無くても、自分で掘ってでもそこにこの身を今すぐ隠したい!
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