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ある日、森の中⑥
「僕を天国に......ですか?
僕は課長を、今すぐ地獄へご案内して差し上げたいです」
にこにこと笑いながら、言ってやった。
すると彼はまたしても肩を揺らし、ククッと笑った。
僕の頬に、彼の両手の平が触れる。
そしてそのまま優しく、今度はまるで恋人にでもするみたいにキスをされた。
馬鹿に、しやがって。
......絶対に言いなりになんか、なってやるもんか。
キスに応えるふりをして首筋に腕をまわし、彼が動揺して怯んだ隙に、唇に噛み付いてやった。
「くっ......、ホントとんでもないヤツだな」
眉間に深いシワが寄り、口元を拭う彼の指先がほんのり血に染まった。
それを見て少しだけ気分がよくなった僕は、ただ静かに微笑んだ。
「でもまぁその方が躾 がいがあって、楽しめる...か」
躾るって......僕を?
冗談じゃない、そんなの絶対にお断りだ!
思いっきり睨み付け、逃れようと暴れた。
でも力の差は、歴然で。
両腕を片手で易々と押さえ付けられて、跨がるみたいにして僕の腰の上に座ったまま、まるで値踏みするみたいな無遠慮な視線を投げ掛けられた。
「......重いです、課長。
キモいし、とっとと退 いてください」
冷めた視線を向け、今度は感情を殺して告げた。
わざとらしく考えるみたいな素振りをしてみせ、彼は答えた。
「えー、どうしよっかな。
......でも退いたら、確実に逃げるだろ?」
「当たり前です。
まぁでも、腕力にモノを言わせなきゃ、僕の事を好きに出来ないのは分かりますけど」
クスクスと笑いながら、挑発するみたいに言ってやった。
すると彼も楽しそうに笑い、答えた。
「うーん、最初は仕方ないよね。
でもさぁ......言うことを聞かない子リスちゃんが、少しずつ従順になってくのを見るのも、楽しいもんだぞ?」
「誰が、子リスですか。
......今すぐ、死ねば?」
僕の言葉に、また彼が楽しそうに笑った。
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