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ある日、森の中⑮

 あまりにも、デリカシーのない発言。  まぁそれも、お互い様かと思う。  でももしここで、例え嘘でも『好きだよ』って一言言ってくれたなら。  ......天の邪鬼な僕だって、もう少し素直に甘える事が出来るのに。  そんな僕の心中を知ってか知らずか、彼は乱暴に僕の顔を上に向かせ、そのまま荒々しくキスで唇を塞いだ。  その口付けは、やっぱり煙草とアルコールの混ざりあった匂いがして。  ......嫌でもさっきまでの行為と今のこの不可解な状況が、現実のモノなのだと思い知らされた。  ......でもこんなの、ズルくないか?  そもそもの話、僕はバリタチ。  突っ込まれる側じゃなく、突っ込む側。  ......断じて、ネコじゃない!  なのに告白も何もないままに、事前に役割分担の確認もなくいきなり掘るとか。  ......有り得ないだろ、絶対コイツだけは許さんっ!!  体が落ち着き、冷静になるとまたかなりムカついて来たから、僕は彼の背中に腕をまわして逃れられないように固定してから肩に思いっきり噛み付いてやった。  慌てた様子で僕の体を無理矢理引き離し、小さく呻きながら噛まれた場所を押さえる課長。 「ざまーみろっ!!」  ベッドの上、中指を立て、笑いながら叫んだ。  すると彼は再び僕をベッドに組み敷き、溢れる血液を拭った指先を僕の唇に捩じ込むと、ニヤリと笑って言った。 「初めてだから、優しくしてやったのに。  ......余裕有りそうだから、第二ラウンドスタートな」  その言葉に動揺し、逃げようとしたのだけれど格差がありすぎて体を押し戻そうとしてもびくともしない。 「ホントお前、マジでふざっけんなっ!!  こっちは後ろの処女(バックバージン)奪われたばっかで、まだお尻がヒリヒリしてるんだよっ!!  さっさと離せ、このパワハラセクハラクソ上司っ!!」  僕の絶叫と、それとは真逆な課長の楽しげな笑い声が、室内に虚しく木霊した。  この日僕は、知った。  課長は森でダンスを踊る、可愛い『くまさん』なんかじゃない。  ......鋭い爪と牙を隠し持つ、獰猛な獣だったのだと。

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