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次の日から

広瀬は、宮田と一緒に監視カメラの映像を確認したり、周辺情報を集める仕事を続けている。昼食を食べるため中華屋に入ると広瀬は一番量が多そうな定食を頼んだ。宮田は丼ものを頼み、ついてきた野菜の煮物を広瀬に示す。「食べる?」 この前も、そう言われて副食材のサラダをもらったら恩をきせられて飲みに行かされたのを思い出した。ご飯を食べた後なんとなく足りないなと思っていたら宮田がサラダを「欲しい?」といってくれたのだ。ありがたく頂戴したら貸しだといわれた。 後で思ったのだが、宮田は野菜が嫌いなので、サラダや煮物はほとんど食べない。広瀬が食べなければ手付かずのままになるだけだ。だから広瀬が食べても借りでもなんでもないはずだ。 「残りものなら食べるけど」と広瀬は答えた。 宮田は広瀬の意図をさっして笑う。「残すから、どうぞ」 広瀬は追加でお金がかからなければ必ずご飯をおかわりする。宮田は先に食べ終わって広瀬を見ている。 「最近、東城さんとなんかあったのか?」と急にきかれた。 箸を取り落としそうになったがこらえた。感情をださず無表情を保つのは広瀬の得意分野だ。目をふせたまま返事をしなかった。ただし、内心では落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。食べるスピードを変えたり、驚いたように宮田をみたりしてはだめだ。 「高田さんには言わないから教えろよ」と宮田は言う。「喧嘩したんだろ。それも、相当ひどいやつ」 なんで喧嘩したことになってるんだよ、と思った。どうやら自分たちは喧嘩ばかりしていると思われているようだ。 「してないよ」と広瀬は答えた。 宮田は広瀬から返事があったことで身を乗り出してくる。 「やっぱりな。喧嘩じゃないなら、何があったんだよ」 広瀬は思わず宮田をみてしまった。鎌をかけられたのか。 宮田は人のよさそうな顔をしている。これが曲者なのだ。「東城さんも広瀬も最近変じゃないか?なにがってわけでもないけど。あ、誰かが噂してるんじゃないから心配しなくていいよ。俺がそう思ってるだけだから。ちょっと前まで仲良さそうにしてたのに、急に、なんていうか、お互いに怒ってないか?完全に無視してるっていうか避けてるって言うか」 一方的に避けられているだけだ。誰も怒ってなんかいない。自分はこの状況に困ってるだけだ。 東城にキスされたことを思い出す。あの時の唇の感触と東城のかすかなフレグランスの匂い。あの後、黙っていた彼。 広瀬は再び食事に目をおとしたが、すっかり食欲はなくなっていた。宮田がくれた煮物は一口食べただけだった。広瀬は箸をおいた。 「広瀬、お前、大丈夫か?」と宮田に聞かれた。「なにか、東城さんに言われたのか?あの人、お前にきついときあるからな」 そうじゃない、それどころじゃないんだ。だがもちろん東城にキスされたなんて、口が裂けてもいえるわけがない。 東城は女性と遊んでばかりいると聞いていたのに、自分にキスしてくるなんて。おまけに今は避けられている。かといって、東城に自分の気持ちを打ち明けられたとして、広瀬はどうしたらいいかわからない。 「なんか、悪いこときいちゃったみたいだな」と珍しく宮田は広瀬を追及してこなかった。「力になれることならするから。無茶なこと1人でするなよ」と宮田は言った。「東城さんと喧嘩するなら、俺は広瀬の味方するよ。あの人腕っぷし強いけど、お前も結構やりかえせそうだし。2対1ならなんとかなるかな」宮田は詮索好きだが、その点以外はいい奴なのだ。 広瀬は何とか宮田にうなずいてみせた。ただの喧嘩だったらどれだけよかったのにと思った。そして、今の会話で、自分が東城の態度に傷ついているとわかってしまった。彼はひどい。急にキスをし、すぐにあやまり、今は自分を避けている。一番の問題は、自分が傷ついているということだ。なんでこんなことで傷つくのか。悪いのは自分ではなく、傷つくような理由は何もないはずだ。自分で自分が理解できない。

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