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早朝に

アサイコーポレーションにつく頃には、やや明るくなっていた。 正面はシャッターが下りており開いていない。裏口を探していると外階段があった。あがってみるがドアには鍵がかかっている。どうするのか、と見ていたら、広瀬は一番上の7階まであがり、下におりながら開いているドアを探し出す。 たまに、外でるのを便利につかうので閉め忘れる事務所がいるのだ。 6階がそれだった。広瀬はためらいもなく6階に入り込んだ。中は真っ暗である。用意してきた小さな懐中電灯をつける。内階段をつかって下に降りていく。このまま広瀬と一緒に行動していたらどんどん大変なことに巻き込まれそうだ、とそのときになって東城は思った。 5階は、変哲のない事務所のようだった。入り口はやはり鍵がかかっている。3階と同じ広さだろうから、数人規模の事務所だろう。広瀬は、入り口の写真を撮影する。入り口の鍵をみて、開くかどうか考えていたようだが、無理にあけるのはやめたようだ。 「郵便受けを見に行きましょう」と広瀬はいった。てきぱきしている。 郵便受けのところでアサイコーポレーションをみると何通か手紙が入っている。広瀬が郵便受けのダイヤルを回し、勝手にふたをあけた。手紙自体は手に取らず、送り主の写真をとっている。 そこで、共用部の灯りがついた。 「誰だ、何をしている?」と声をかけられる。 振り返ると2人の男が立っていた。 「警察のものです」と広瀬は答えた。ゆっくりと郵便受けのふたをしめている。態度は堂々としている。単にまずい状況ということがわかっていないのかもしれない。 「警察?」男の1人がはしげしげと2人を見る。「本当にか?警察がこんな早朝に?泥棒じゃないのか?」不審そうな顔だ。 「あ、この二人」ともう1人の男がいう。「この前事務所にきて社長に会いたいって言ってた警察です」3階の黒沼産業で以前東城と広瀬を応対した若い男だった。 「本当に警察なのか?」と男は若い方に確認する。そして納得したようだ。にやりと笑った。「警察の人ならちょうどよかった。相談したいことがあったんだ」と男は言った。 「相談?」 「脅迫状がきてるんだ。俺宛に。復讐するとか書いてあって、小さい花びらがでてきたって従業員から連絡がありましてね。心配になって海外から急遽戻ってきたんです」と男は言った。不安そうな口調ではない。男は名乗った。黒沼本人だった。 黒沼は30代半ばの男だった。ふちのないめがねをかけ髪はオールバックにしている。神経質そうに何度もずれてもいないめがねのふちを持ちあげている。 本庁から来ている捜査員に、脅迫状に関する心当たりや殺された不動産屋、倉庫の番人、ドラッグの売人2人について事情が聞かれていた。外見やしぐさとは異なり黒沼は太い神経の持ち主だった。強面の捜査員に何を聞かれてものらりくらりと被害者たちを知ってはいるが、深い付き合いではないとしかいわなかった。 「ビジネスパートナーは多いんですよ。中には悪いことする奴もいて、そうだとわかると付き合わないようにはしているんですが、なかなか整理できるもんじゃないです。手広くビジネスやってると逆恨みするやつは大勢いるんですが、脅迫状まで送ってくるのは始めてですよ。殺人事件も起きてるっていうから、心配でね。早く捕まえてくださいよ。税金はらってるんだから」とうそぶいていた。 脅迫状は今回の連続殺人で公表されていない花びらが入っていた。犯人が送った可能性が高い。黒沼自身がねらわれる可能性は十分にあった。 黒沼には特別に警護がつけられることになった。

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