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吐息2*

30から40分ほど走らせついたのは、街からやや離れたところにあるこじんまりとしたビルだった。外見の窓はホテルっぽいがホテルの表示は一切ない。 地下の駐車場に入っていき、車をとめた。 「ホテル」と広瀬は言う。ホテルに泊まるのはいやだと以前東城には伝えたはずだ。 「ここは、ホテルとは違うから」と東城は言った。「降りろよ。大丈夫だから」 何が大丈夫なのかはわからないが東城は車を降りた。すたすたとエレベーターにむかっていく。 広瀬は、仕方なく東城を追いかけた。休みがあることを言わず嘘をついたのは確かだ。だが、東城がそれに拗ねてさらに拗ねた自分を隠さないとは思わなかった。見栄っ張りの彼がそんな体裁の悪いことをするとは思わなかったのだ。それだけ気分を害したということなのだろうか。広瀬は少しだけ反省した。 エレベーターの先はアンティークの調度品がならぶ高級感のあるロビーだった。ホテルとは違うというが、ロビーの様子はホテルそのものだ。他には客が全くいないことを除いては。 東城がチェックインするまで、広瀬はソファーにすわった。ソファーの近くにパンフレットがあるので手にとって見ると、高級会員制の倶楽部が所有する宿泊施設で、一般には開放されていないらしい。こういうところで、急にお金持ちの坊ちゃん力を発揮するんだな、と広瀬は思った。 部屋に向かうエレベータで、無償に空腹になった。大井戸署をでたときからすいていたのだが、車に乗っている間緊張感で忘れていたのだ。だが、ここにきて空腹襲ってくる。広瀬は空腹が苦手だ。何か食べないと力もでないし、気持ちも沈む。 部屋のドアをあけると広瀬は東城のあとから部屋に入った。 ドアが背後でしまりオートロックがかかる。途端に背中をドアに押し付けるようにして東城が荒々しく唇を重ねてきた。むさぼられるように中をかきまぜられ吸われる。長い時間そうされて息ができなくなる。 広瀬は東城を押しのけようとして彼の肩を両手で押した。下唇を噛まれ、口ははなれたが、すぐに耳の下を舐められる。 「東城さん、ちょっと」 「ん?」彼の手が自分をまさぐってくる。 「ちょっと、待ってください」 「だめだ」ときっぱり断られる。「今日は帰さないから。お前の希望はきかない」 「あの、そうじゃなくて」と広瀬は答える。「おなかすいてるんです。何か食べてからにしてください。そうじゃないと、多分、途中でだめになるから」おなかがなる音がする。 東城はふっと耳元で笑った。広瀬の腹をなでる。「お前といると段取りが崩れる」 やっと離してくれた。部屋に入ると広い。リビングと寝室はわかれている。リビングのテーブルの上にはウェルカムフルーツの盛り合わせが置いてある。広瀬は葡萄を一粒とって口に入れた。空腹にはありがたい甘みだ。 「このホテルルームサービス旨いから適当に頼んでていいぞ」東城はそういうと、メニューを差し出してきた。 遠慮なく美味しそうな魚介やステーキを頼み、待つ間、冷蔵庫に入っていた白ワインを飲んだ。東城が保証しただけあって食事は美味しく満足がいくものだった。 ベッドに入り、身体を重ねてくる。東城の重い体重がかかり、体温がしみこんでくると、身体がすぐに反応する。強引なことをされているのだから、もっと冷たくしていたいのに、下半身があつくなり立ち上がりかけている。 東城の太ももにあたったのだろう、彼は気づき、そっと手をそえてなぞってきた。 東城の愛撫はいつも丹念だ。長すぎなんじゃないかと思うこともある。執拗に快楽のポイントを攻め、身体中が溶け出してしまうのではないかとおもうくらいしつこく続く。 体力があるせいもあるのだろう、下手すると持久走のように続くことがある。一度、広瀬が息を切らすと、それさえも楽しんで続けてくる。 手や舌で、広瀬のそれは十分固くなっていた。もうちょっとで高みに入ると思っていたら、そっと手が動き、後ろの秘所に触れた。えっと思ったらうつぶせにされ、ちょっとだけ腰を高くされる。東城はそこをじっと見ているのがわかる。そして、ぬるっとした感触。舌がふれたのだ。 「それは」しないんじゃないんですか?と広瀬はいいそうになった。 「だめか?」と東城は聞きながら、まだ、舌を動かしてくる。先端がちょっとだけ中に入る。 だって、と広瀬は思った。前はしないようなことを言っていた。 「ちょっと研究したんだ」と東城は言った。「ここで、かなり気持ちよくなれる」 何を余計なことを研究してるんだ、忙しいとか言いながら実際は暇なのかこの人は、と腹立たしくなる。 また、舌が触れる。声をあげてしまいそうな、違和感だ。 広瀬は、彼から逃げて無理やり姿勢を変え仰向けになってシーツをたぐりよせようとした。「気持ちよくなるのは、俺じゃないんじゃないですか」と広瀬は言った。 「そうじゃなくて」と東城は言った。彼は、広瀬の上にかぶさってくる。「お前が、すごく気持ちよくなれるらしいんだ」と東城は言った。「大丈夫」と言ってなにやら説明している。広瀬が聞きたくないような自分の身体の仕組みだ。どの部分が感じるのか、どうして気持ちよくなるのか、こんな解説には不向きな真面目な口調だ。いったい何を読んで研究するとそんなことが書いてあるんだ。説明する間も東城の手が臀部の隙間をなで、会陰を優しく押したり袋に触ったりしている。広瀬はその手は拒否できない。こんな愛撫は好きなのだ。 「途中でほんとうにいやになったら、いやっていってくれ。そうしたらすぐにやめるから。約束する」と東城は誓う。 「途中でやめられるんですか?」生理的に無理だろう、と広瀬は思った。自分も男だからわかる。つっこんでる最中にいやと言われてやめられるほど簡単ではないはずだ。 「お前、自分が危機的状況だとしゃべるんだな」と言われた。「ほんとうにやめる。お前に嫌われたくないし、傷つけたくもないからな」と言った。「あ、でも、よくある、『イヤイヤ』っていってホントはそうじゃないっていうのはなしな」 「それは誰が判断するんですか?」 「俺」 広瀬はかぶりをふって東城をみた。自分のあきれた表情に彼は笑顔を見せる。 「じゃあ、どうしたい?」スポーツかカードゲームのルールを決めようとしているような口調だ。 「知りません」 「うーん。どうしても嫌なときってなんていうんだ?」 「何も言いません。殴って終わりです」 「剣呑だな。殴られたくはないから気をつけるよ」と彼は言った。彼の手がそっとあしをなであげる。「お前を気持ちよくしたいんんだ。最初は違和感あるかもしれないけどすごく気持ちよくなる」よ、と東城は言った。そして、もう一度うつぶせにされた。 自分のためなんて嘘だ、と頭の半分はわかっていたが、もう半分はそんな言葉にほだされている。俺も相当いかれてる、と広瀬は思った。でも、同意をしてしまったのだ。 東城は、何度も後ろのそこに口付けていたが、手をのばし、サイドテーブルにおいた小ぶりなボトルを手に取った。ホテルに置いてあるローションなのだろうか。広瀬がシャワーをあびているあいだにそこに用意していたのだろう。全て準備万端ということだ。そのことだけでもいやになる。ここでいやだと言おうかとも思った。 「ホテルとったのは、このためなんですか?」 「まあな」と東城は言った。「それと、お前が明日休みなの言わなかったから、ちょっと腹たって。たまにはこっちの希望も聞いてもらおうと」 「なんで、ホテル」 「お前の部屋壁薄そうだろ。変な声あげたら全部隣近所に丸聞こえだ。今までもずっと気になってたんだよ」 「変な声って」 急に、ローションのボトルの口をそのまま後孔の入り口に当てられながしこまれた。冷たい感触に広瀬は声をあげた。 「そういう声」東城は広瀬の耳に顔をよせてくる。そして、そっと耳たぶをなめた。「すごく気持ちいいと声でるだろ。ここなら我慢しなくていいから。好きなだけ声だして」 広瀬は顔を横にふる。「やっぱり、いやです」と答えた。 だが、東城は広瀬の耳をかわいがりながら、ローションをまた後孔にたらしてくる。「いまのいやは本当のいやじゃないから」 判断は東城がするんだ。そして広瀬もそのときは本気の抵抗はしなかった。 ローションは開いていない後孔に十分に入るはずはなく、大半は臀部の間をとおり太ももにつたっていく。東城はそれを手にとって臀部や後孔の入り口にまぶしていく。わずかに、中にローションが染み込んでくる。 「くっ」と広瀬はいった。入り込む液体にふるえる。 東城の指が入り口を出入りしていたと思ったら、するっと入り込んできた。広瀬のすぼまりを強く押して、最初だけは強引に入ってくる。だが、一旦入り込むと後は、その先を確かめるように、無理のないように探ってくる。指先についたローションがくちゅっと音をたてた。ざわざわと身体が動き出す。 東城の指が優しくそっと中をたどろうとしているのは、違和感はあるが、いやなものではない。前後に動かされる指にそってさらにローションが流し込まれていく。 身体の中が、だんだんローションで、どろどろになっているのがわかる。指が身体の中のどこにあるのか、広瀬にはわからない。かなり入り込まれたような気がするのに、いつまでも、中にのびてくる。どこまで伸びて入り込んでくるのか、そんなに入れていいものなのか、不安になる。 「広瀬」東城の声が背中から聞こえる。「まだ、指、全部はいってないから」と教えてくれた。「中指いれてるんだけど、まだ、第二関節くらい」 指がそれを示すように上下に動かされる。 「息できるか?」 広瀬はあまり動かせない頭でうなずいた。背中をなでられる。「一回、深呼吸してみろよ。お前、息つぎしてない」 東城が指の動きをとめる。広瀬は、息を吸おうとした。うまくいかない。 「ゆっくりでいいから」とんとんと背中を軽くたたかれる。「声だしてみな。あ、でもなんでもいいから」 息を軽くすって、言われたとおり声をだしてみようとする。だが、でるのはかすかなあえぎばかりだ。 東城は、背中をなでる。「息、してろよ」そして、また広瀬の中にある指を動かした。「身体の力ぬいて、あんまり指のことばっか考えるな。深呼吸して」そういいながら自分でも、「それができればこんな大変な思いしないよな、広瀬」と言っていた。 東城の指がまだ奥には言ってきて、何かをさがすように動く。指の先で、そっと、満遍なく中を押してくる。奥の一部に急に触れられぎゅっと押された。身体が一瞬浮いたように感じた。頭からつま先まで強いしびれのような衝撃がはしる。何があったのかわからなかった。気がつくと、高い声があがっていた。自分の声と気づくのに時間がかかった。広瀬は、びくびくと身体を震わせ、精を吐き出していた。そのいきなりな感触がいやで、自分で自分の性器をつかんでしまう。こんな感触ははじめてた。 「あ」東城も、あせった声を出す。「大丈夫か?」ぐったりした広瀬から急に指をぬいた。 「や!」 引き抜かれた早い指の動きもつらさにつながる。今まで指がはいっていたところがなくなってしまったものを求めてうねっている。 広瀬は、身体がつらくて、恥ずかしくて、顔をあげられず、枕にうずめる。背中から東城に抱きしめられた。身体はまだ、時々自分の意思に反してびくっとなっている。おさまりそうにない。それを東城に感じ取られているのもいやになる。 「すまない。そんなに刺激が強くなるとは思わなかった」と東城は言った。顔をのぞきこむようにして「もう、やめとくか?つらいよな」と彼はきいてきた。 どうしてここでそういうことをいうのか、と広瀬は憤った。途中でやめるなら最初から誘わないで欲しい。なのに、ここまできて、引き返そうといいうのか。広瀬の身体をこんなにじれてさせておいて。広瀬は首を横に振った。何度も。 「できる?」と東城に聞かれ、広瀬は、うなずいた。 東城は、広瀬を抱きなおす。「そうか。じゃあ、続けるけど、ごめんな。ちょっとお前の身体のことなめてかかってた。今度は、気をつける」 東城は再度ローションで指をぬらし、差し入れてきた。先ほどひらかれたせいだろう。今度は、すんなりと入ってくる。 彼は、気をつけて、広瀬の快楽の場所を確認すると、そこには極力触れず、後孔が十分に広がるようにゆっくりと指を動かしてきた。ただ、ときどき、その場所に触れるので、広瀬は腰を動かした。「うっ、うっ、」と声がでてしまう。 「あとちょっとがまんして」と東城はなだめるように広瀬の背に唇をおとした。 そして、指の数を増やし、中を広げていく。ゆっくりとしたペースだ。 「んー」この丁寧さがだんだんともどかしいものになってくる。広瀬のペニスは再び立ち上がりだした。東城はそれをもう一方の手でつつんでくれる。 後ろに入って指は数をふやされている。うごめくそれは、どうしても広瀬のポイントにじくじくとあたってしまう。東城の指先に自分がまとわりついてしまいそうだ。そのまま、こすりつけたい気持ちになる。 「もう、大丈夫そうだから、いれるな」と東城は言った。 既に快感に意識をひっぱられ、返事をすることはできなかった。 東城は引き出しからコンドームを出すと、歯で端を破り片手で器用にとりだした。広瀬は、頭を動かして東城をみる。 彼が、自分のペニスにゴムをすばやくかぶせている。それは既に十分大きくなっていて、さきほど入っていた指など物の数でもない大きさだった。今まで何度も触ってきたからその長さや太さはよく知っている。広瀬は目をとじた。見なかったことにしたい、と思った。想像すると怖くなる。あんな大きなものが自分に入るなんて、やっぱり無理だ。やめてもらおう。 東城のモノが後孔にあてられ、ためらいなくぐっとはいってきた。 質量が指とは全く違う。「あああ!」広瀬は声をあげた。悲鳴に近い。声をとめるなんてできない。口をとじることもできない。 入り口をいっぱい広げられて、入り込まれた。かなりきつい。どこが気持ちよくなるんだと怒りがわいてくる。 東城はかなり強引に腰を動かして入れてくる。が、狭いためか思ったようにはすすめない。彼も、時々とまって、息をしては、また、差し込んでくる。その動作が広瀬に悲鳴をあげさせる。 ようやく、最後まで入ったのだろう、しばらく、東城はじっとして、背中から広瀬をだきしめていた。東城の身体が今まで知らないくらい熱い。 「ひろせ、」と東城は言った。全く余裕のない声だ。「おまえの、なか、あつい」彼もせっぱつまっていて言葉を続けられないようだ。 彼は、腰をうごかした。広瀬の中にぎちぎちに入っているはずのそれが、すこしずつこすれていく。狭いところを何度もこじあけられる痛みが走る。その後で限界になりそうな快感が続く。痛み次に正反対の悦楽が重なり、また痛みが襲ってくる。広瀬はひきちぎられそうにになる。身体も感覚も。触れ幅が大きすぎる。しばらくして、とうとう広瀬はねをあげた。「あっ!いやだ、いや!痛い!東城さん!」悲鳴に近い声だった。 何度もいやだ、痛いといったが、東城は腰を引かなかった。広瀬の言葉など耳には入らない様子だ。 広瀬は身体を前にうごかし逃げようとした。力の入らない手足で前方に這おうとする。しかし、東城は、彼の腰を大きな両手でがっちりとつかみ、逃がさない。彼の大きな性器が打ち込まれ、少しひかれてまた打ち込まれる。そのたびに広瀬の身体はしなり、声があがる。 「いやぁ、」ぎゅっと閉じた目から涙がおちた。「もう、やめ、」広瀬は泣きながら哀願した。何でもするからやめてほしいと。 だが、背中から覆いかぶさってくる東城の息は荒く、まるで広瀬の声に耳をかさなかった。むさぼられる。このまま彼に蹂躙され奪われてしまう。東城がこんなに我を忘れて広瀬を扱うことになるなんて。 しばらく動かされていくうちに、急に痛みが消えた。快楽というには強すぎる頭が飛ぶような感触がおそってきた。先ほどの快楽のポイントを、東城の性器がついた。明らかに意思をもって、そこを攻めてくる。中が勝手にうごめきだす。こすりあげられる感触がしだいに大きくなってくる。ぎっしり入ってくるだけで身体が意思に反して動いてしまう。全身が、東城を感じたがってザワザワとしてくる。 広瀬の欲望が彼のいやがる言葉とは裏腹に身体の快楽を語るように立ち上がりそりかえっていた。ぽたぽたと透明な液をたらしている。だが、全身が感じている彼は、もうどこをどうしたらその先にいくことができるのか、何もわからなかった。 広瀬は細い悲鳴をあげた。自分でいることさえ耐えられず、身悶えるだけになってしまった。 東城の右手が突然腰から離れ、くっと広瀬の欲望をにぎってきた。最初は優しく、次第に強くこすられた。広瀬はあっというまに射精した。身体中がビクビク跳ねる。東城に入り込まれた中はうねった。絶頂は長く続いた。 吐き出した瞬間がいった瞬間なのか、それともその後も続き、東城が達するまでうごめき続けた後ろの感覚がいった瞬間なのか、広瀬にはわからなかった。途中からずっと、広瀬の身体は広瀬のものではなくなり、ただ、広瀬は、苦痛と同じような快楽にほとんど息もできず溺れるだけだ。そのうちにふっと目の前が暗くなり、意識がなくなった。

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